14 清香

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「これから行くの? お買い物」 「ああ、叔母上も一緒に来るか」 「私も男と待ち合わせしてるし、デートにお邪魔できないでしょ」 「デートではないが」 「どっちでもいいけど、とりあえず気を付けて」 「ああ」 「ほんっとうに、気を付けてね」 「なぜ念を押す」  清香ははぁっと息を吐いて、おもむろにブラウスの袖をまくった。 「見てこの鳥肌」 白く細い腕に、見てわかるほどの鳥肌がたっている。 「昨日と何も変わっていないの。姫ちゃんのこれ、常時発動中みたいね」 「精神干渉の力に反応しているのか」 「うん、多分ね。昨日の夜、姫ちゃんを一目見たとたんにゾゾゾって寒気がしたわ。他に精神干渉系の種族に会ったことが無いから、何とも言えないけど」 「そうか……いったいどういう種類の力だろうか……」 「うーん、はっきりは分からないけど、自分に注目させるっていうか、こっち見てーって言ってる感じがする。無意識のうちに周囲に庇護を求めているんだと思うわ」  不安そうな顔で、姫が私と清香を交互に見ている。 「姫ちゃん、あなたはどう思っているの」 「どう?」 「冬十郎のこと」 「冬十郎様はきれいで優しいです」 「そうね、でも他にもいくらだってきれいで優しい人はいるわ」  姫は首をかしげる。 「冬十郎様以外の人がきれいだろうかブサイクだろうが、わたしには関係ないですけど」  清香がぐっと言葉に詰まったように、顎を引いた。 「あーもー、ほんと厄介ね。冬十郎を特別に思うなら、他の人を誘うんじゃないわよ」 「わたし、誰も誘ったりしてないです」 「無意識だろうが何だろうが、姫ちゃんは事実として誘っているのよ。あなたのその力は、まわり中に濃くて強烈なフェロモンまき散らしてるみたいなものなんだから」 「わたしは、何も……」  泣き出しそうな顔で、姫がこちらを見た。  心細いような切ない目をして私を見上げてくる。  私は昨日からの短い期間で、こういう時にどうするべきかをちゃんと学んだ。  両腕を広げて、姫の体を抱き寄せる。 「怖がらなくていい。物心ついた頃から生きるために使っていた力だ。そう簡単に抑えられるものではない。大丈夫、いずれコントロールできるようになる」 「冬十郎様……」  姫が甘えるように体をくっつけてくる。  少しわざとらしい仕草にあれ、と思った。  もしかして、清香に見せつけているのか……?  髪に隠れて姫の表情は見えなかった。  まぁ、姫の意図が何であれ、私は私のしたいようにその背中を優しく撫でるだけなのだが……。 「あああああ、あんたらほんとたちが悪い」  清香の言葉は昨夜と同じだったが、その声の響きは昨夜とはだいぶ違っていた。 「たちが悪いのは私もか」 「自分でも分かっているんでしょ」 「……そうだな」  清香はふんと鼻で笑った。 「私、もう行くわ」 「ああ、いろいろありがとう」 「ちょくちょく様子見に来るわね。姫ちゃんも」  姫が顔を上げた。 「あ、あの、服とか、これ」  と、手の絆創膏を示して、 「ありがと……うございます」 「いいえ、どういたしまして」  一瞬、妙な間があった。 「どうした、叔母上」 「うん、七瀬君がね、私とこの子がどことなく似ているって言うから」  私は二人を見比べた。  凛としている美貌の清香と、弱々しく儚げな姫。  どちらも黒髪というところぐらいしか、似ているところは無いように思う。 「似て、いるのか?」 「そうよねぇ。似ているところなんて無いわよねぇ。まぁいいわ。じゃね」 「ああ」  くるりと踵を返し、巻き髪を揺らして清香は出て行った。
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