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15 買い物
冬十郎と手をつないで歩く。
誰もわたしを見ていない。
誰も後をつけてこない。
誰も隙をうかがったりしていない。
それは少なからずわたしにとって衝撃だった。
外を歩いているのに、さらわれそうな気配がない。
男も女も、すれ違う人が振り返って見るのは、美人で長身の冬十郎だ。
美しい人は、ただ歩き、ただ微笑むだけで、キラキラと輝くようにその場の中心になるのだと知った。
「叔母上に言われた通りモールとやらに来たはいいが、店が多すぎて目移りするな」
注目されることに慣れているのか、冬十郎本人はいたって自然体だ。
若者向けのファッションや雑貨の店がずらりと並んでいるショッピングモールの、細長い中庭のようなところを歩いている。
誰もが眩しそうな顔で冬十郎に見惚れ、手をつないで歩いているわたしを見て怪訝な顔をする。恋人にしても娘にしても微妙な年齢で、もしかしたら妹かも知れないが、顔立ちは全く似ていない。あの美しい人が連れている子供は何なのだろう、という感じだろうか。
でも、誰もわたしの『親』になりたそうな顔はしていない。
「わたし、今日は誰一人誘ったりしていないですよね。冬十郎様と一緒にいれば、おかしなフェロモンとか出ないってことでしょうか」
嬉しくて、にこにこと冬十郎を見上げる。
「姫、そうではない」
「え」
冬十郎はわたしの頭をポンポンと叩いて、ふいっと視線をそらした。
「あそこのカフェでコーヒーを飲んでいる男」
冬十郎の視線を追って、カフェを見る。
スーツ姿の若い男と目が合った。
びっくりして冬十郎に体を寄せても、男はじっとわたしを見つめ続けている。
「それから、あそこの植え込みの後ろにいる男」
振り返ると、耳にいくつもピアスをつけた短髪の男が、ポケットに両手を突っ込んで
ねばつくような目でじっとりとわたしを見ていた。
「や……」
わたしは両手で冬十郎の腕をぎゅっとつかんだ。
「大丈夫、見ていてごらん」
冬十郎が指で示した先に、2号の姿が見えた。黒いスーツにサングラス姿で、耳にイヤホンのようなものをつけている。
「二、三人でいいと言ったのだが、護衛に十人も来てな」
2号と同じように黒スーツにサングラス姿の男女が、距離をあけて周囲に何人も散らばっているのに気付いた。
「みんな張り切ってしまって、揃いの背広に揃いのサングラスだと」
2号が手元の小さな機械に何か言うと、黒スーツの男女が動き出す。
カフェの男の視線を遮るように二人が立ち、植え込みの男の前にもほかの二人が立った。
残りの六人は一定の距離を保って、わたし達の後ろからついてくる。
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