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「あの人達は」
「うちの社員だ」
「社員……?」
整った顔立ちに、すらりと手足の長いモデル体型。
三つ編みにしたり、ポニーテールにしたり、冬十郎と同じく無造作に束ねたりと髪型はそれぞれだが、全員が艶やかな長く黒い髪を持っている。
「あの人達もみんな、冬十郎様の親戚なんですか」
「……似ているか」
「はい……すごく」
顔がそっくりというわけではないが、佇まいがよく似ている。
似すぎていて、ちょっと不気味なくらいだ。
清香という女が言っていた訳の分からない話は聞き流していたけれど、冬十郎の周囲は何だかやっぱり普通じゃない。
親戚が十人以上集まるというだけなら別におかしなことではない。けれどその十人全員が若く美しいなんてこと、有り得るのだろうか。一人も太っていないし、一人も背の低い人がいない。出っ歯もいないし、ニキビ面もいない。
「あの……社員って、何の会社なんですか」
「ああ、葬儀社だ」
立ち止まって、冬十郎を見上げる。
モデル事務所と言われたのなら、まだ理解できたのに。
美形の親戚ばかりが働いている葬儀社……?
「姫?」
冬十郎がわたしを見下ろす。
「安心しなさい。みんな優秀な社員だ」
「はい……」
冬十郎は彼らを振り返って、くすっと笑った。
「あのように芝居がかった装いはどうかと思ったが、スパイ映画のようで少しワクワクしてくるな」
楽し気な口調と表情は、まるでいたずら好きの少年のようだ。
そんな素敵な顔を見せられてしまったら、小さな疑問なんてどうでも良くなってしまう。
似ている人が何人いようとも、美形ばかりの葬儀社があっても、それはほんの些細なことだ。
冬十郎はきれいで優しくていい匂いがして、とにかくわたしの特別だ。
わたし達は手をつなぎ直した。
「では、買い物を続けようか」
楽しそうに冬十郎が笑った。
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