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冬十郎と一緒に本屋さんにも入った。
棚いっぱいの本を見ると、先生の家を思い出す。
先生の家には難しそうな推理小説などがたくさん本棚に並んでいた。
少しずつ字が読めるようになってきた頃、先生の真似をしてそんな難しい本を読もうとしたことがある。
でも、最初のページから躓いた。
分からない漢字がたくさんあったのだ。
『本を閉じないで、アユミ』
諦めそうになったわたしに先生は言った。
『読めない字も、分からない言葉も、ひとつひとつ全部先生が教えてあげるから。ゆっくりでいいから最後まで読んでみよう』
優しい先生の声を思い出しながら、わたしは推理小説のコーナーへ行こうとした。
だが、つながれた冬十郎の手が違う方向へとわたしを引っ張る。
途惑いながらついて行くと、そこは絵本のコーナーだった。
「姫、題名に『姫』とつくお話はけっこうたくさんあるのだな。寝る前に読んであげようか」
しらゆき姫に、ねむり姫、それにかみなが姫……。
淡くかわいい色合いの、子供向けの絵本。
もう少し難しい字も読めますと、わたしは冬十郎に言えなかった。
きれいな顔を見上げて、笑顔を作って見せる。
「嬉しいです、冬十郎様」
冬十郎はただ、わたしが望んだ通りに、いっぱい甘やかしてくれようとしている……。
優しく微笑んでいる顔を見て、それがよく分かったから。
哀れでかわいそうな子は、言い返したりしないものだから。
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