16 歌

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「寄るな! 離れろ!」  人波を押しのけるようにして冬十郎がわたしを抱いて連れていく。  わたしは冬十郎にしがみついて、追ってくる人々を見る。  必死で走る人々の顔が怖かった。  だが次第に群衆のほとんどは、諦めて遠のいていく。  ほっとしそうになったけれど、まだしつこく追ってくる男が十人以上もいる。  冬十郎は、わたしを抱いて走る。  黒スーツ達が足払いをかけたり投げ飛ばしたりして男達を足止めする。  地下の駐車場が見えてきた。  キキーッとタイヤを軋ませて黒い車が突っ込んでくる。 「乗ってください!」  黒スーツの一人が後部座席のドアを開ける。  そこへ飛び乗ろうとして、突然冬十郎は足を止めた。  がくんと膝を折り、わたしから手を離した。  わたしはバランスを崩しながらも、転ばずに降り立つ。 「冬十郎様!?」  咳き込むようにして冬十郎が血を吐いた。  その背に大きなナイフが突き刺さっていた。
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