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「寄るな! 離れろ!」
人波を押しのけるようにして冬十郎がわたしを抱いて連れていく。
わたしは冬十郎にしがみついて、追ってくる人々を見る。
必死で走る人々の顔が怖かった。
だが次第に群衆のほとんどは、諦めて遠のいていく。
ほっとしそうになったけれど、まだしつこく追ってくる男が十人以上もいる。
冬十郎は、わたしを抱いて走る。
黒スーツ達が足払いをかけたり投げ飛ばしたりして男達を足止めする。
地下の駐車場が見えてきた。
キキーッとタイヤを軋ませて黒い車が突っ込んでくる。
「乗ってください!」
黒スーツの一人が後部座席のドアを開ける。
そこへ飛び乗ろうとして、突然冬十郎は足を止めた。
がくんと膝を折り、わたしから手を離した。
わたしはバランスを崩しながらも、転ばずに降り立つ。
「冬十郎様!?」
咳き込むようにして冬十郎が血を吐いた。
その背に大きなナイフが突き刺さっていた。
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