17 炎

1/4

184人が本棚に入れています
本棚に追加
/169ページ

17 炎

 振り返ると、冬十郎に刺さっているナイフと同じものを掲げて、男がこっちに向かって突進してきた。 「ご当代様!」  黒スーツ達が男のすぐ後ろや横から飛び掛かっていくのが見える。 男の動きは速く、右手に持ったナイフで、攻撃を避けざまに黒スーツ達を薙ぎ払っていく。  喉を裂かれ、腹を切られ、黒スーツの体から血が飛び散る。  びしゃっとわたしの顔に血がかかった。 「この女は俺がもらう!」  すぐそばで叫んだ男には見覚えがあった。  中庭にいたピアスの男だ。 「やめろ!」  黒スーツが警棒のようなもので殴り掛かる。  怒号と血飛沫の中、わたしは悲鳴も上げられず、倒れた冬十郎を見た。  冬十郎は呻きながらわたしに手を伸ばした。  その手を握りたいのに、指先が冷たくて動かない。  2号が走り寄ってきて冬十郎の背中を見ると、「肺に達していますね」と事も無げに言った。そして、「抜きます」と言い終わるや否や背中のナイフを引き抜いていた。  傷から血が噴き出る。  冬十郎はまた口から血を吐く。  きれいな顔が苦痛で歪む。 「とうじゅうろう……」  体ががくがくと震える。  氷水を浴びたように体が冷えていく。  血の気が引きすぎて、気絶しそうだった。  誰かがわたしの腕をつかんだ。  顔を上げる。  ピアスの男がわたしの腕をつかんでいた。  目が合った。 「うあっ」  男が声を上げて手を放す。  その手のひらが真っ赤に焼け爛れている。  男が驚愕の顔でわたしを見る。  睨み返す。  男の目を、その奥底までまっすぐ見つめる。  ぽっぽっぽっと男の体からいくつも小さな炎があがった。 「熱! あっ、熱いっ」  男が情けない声を出して炎を消そうとバタバタともがき出した。  炎がどんどん大きくなっていく。  天井まで届きそうな勢いで、轟々と炎が燃えあがる。
/169ページ

最初のコメントを投稿しよう!

184人が本棚に入れています
本棚に追加