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17 炎
振り返ると、冬十郎に刺さっているナイフと同じものを掲げて、男がこっちに向かって突進してきた。
「ご当代様!」
黒スーツ達が男のすぐ後ろや横から飛び掛かっていくのが見える。
男の動きは速く、右手に持ったナイフで、攻撃を避けざまに黒スーツ達を薙ぎ払っていく。
喉を裂かれ、腹を切られ、黒スーツの体から血が飛び散る。
びしゃっとわたしの顔に血がかかった。
「この女は俺がもらう!」
すぐそばで叫んだ男には見覚えがあった。
中庭にいたピアスの男だ。
「やめろ!」
黒スーツが警棒のようなもので殴り掛かる。
怒号と血飛沫の中、わたしは悲鳴も上げられず、倒れた冬十郎を見た。
冬十郎は呻きながらわたしに手を伸ばした。
その手を握りたいのに、指先が冷たくて動かない。
2号が走り寄ってきて冬十郎の背中を見ると、「肺に達していますね」と事も無げに言った。そして、「抜きます」と言い終わるや否や背中のナイフを引き抜いていた。
傷から血が噴き出る。
冬十郎はまた口から血を吐く。
きれいな顔が苦痛で歪む。
「とうじゅうろう……」
体ががくがくと震える。
氷水を浴びたように体が冷えていく。
血の気が引きすぎて、気絶しそうだった。
誰かがわたしの腕をつかんだ。
顔を上げる。
ピアスの男がわたしの腕をつかんでいた。
目が合った。
「うあっ」
男が声を上げて手を放す。
その手のひらが真っ赤に焼け爛れている。
男が驚愕の顔でわたしを見る。
睨み返す。
男の目を、その奥底までまっすぐ見つめる。
ぽっぽっぽっと男の体からいくつも小さな炎があがった。
「熱! あっ、熱いっ」
男が情けない声を出して炎を消そうとバタバタともがき出した。
炎がどんどん大きくなっていく。
天井まで届きそうな勢いで、轟々と炎が燃えあがる。
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