17 炎

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「あの時、歌う姫を見て、体が震えた……。姫を連れ去って、つないで、どこかへ閉じ込めてしまいたいと、強烈に思った……」  わたしは首をかしげた。  冬十郎がそう思ったとして、いったいそれが何だというのだろう。 「冬十郎様が望むなら、つないでも、閉じ込めてもかまいません。わたしのことは冬十郎様の望み通りに……」  冬十郎はまた首を振って、唇をかんだ。  何かを我慢するように、こぶしを握る。  指先が白くなるほど強く握っている。  冬十郎はなぜか怒っているようだった。 「姫、私だけじゃない……。あの場にいた誰もがそう思わされたんだ。姫が、そう思わせた……抗えない欲求を、姫が、心に植え付けたんだ……!」  冬十郎の声が苛立っている。  わたしは誰も誘うつもりはない。  歌えというから歌っただけだ。  けれど……清香の言ったことはこれのことだろうか。 「タチの悪い化け物……?」  冬十郎は一瞬、つらそうに目をそらしたけど、否定してはくれなかった。 「あれだけ強く誘惑しておいて、寄ってきたら殺すなんて……」  と、冬十郎が倒れた男を見る。  炎の中でぐったりしていて、小さく呻いている。 「ひどく残酷だ……」 「でも、この男は冬十郎様に」 「こんな傷など直にふさがる」 「でも痛いでしょう? 苦しいでしょう?」  冬十郎はわたしに縋るようにして抱きついてきた。  甘い匂いがわたしを包み込む。 「冬十郎様?」 「無垢な姫が私などのために人殺しになる方がずっとつらい。それはとてもひどいことだ。姫は私にひどいことをしないのであろう……?」  冬十郎の体が震えている。  わたしはどうしていいか分からなくて、その体を強く抱き返した。 「いいえ、ひどいことなんてしない……そんなことしません……!」 「では、お願いだ。あの男はもう、許してやってくれ」 「はい……はい、もう、許します……」  燃え盛る炎が、幻のようにフッと消えた。  服も床も天井も焦げていなかった。  だが、男の体にできた火傷は消えず、まだかすかに呻き声が聞こえてくる。
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