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18 女
傷は数分もあれば跡形もなく消える。
もう大丈夫だと告げると、今にも泣きそうだった姫は急にぐったりとして寄り掛かってきた。
力を使ったことで消耗したのだろう。
抱き上げて車の後部座席に乗せると、不安げに私の腕をつかんでくる。
「一緒に……」
「ああ、一緒に帰ろう」
隣に座って抱き寄せてやると、そのまま崩れるように眠りに落ちてしまった。
そっと髪に触れる。
付着した血が固まってゴワゴワしていた。
早く洗ってやりたいところだが……。
「あ、あ、あー」
車の前で、花野が細い喉を撫でながら発声練習をしている。
「まだ違和感があるか」
「いえ、もうほとんどくっつきました」
喉を切られても、我らは死なない。
ナイフで裂かれ血で汚れた新品のスーツに溜息を吐きつつ、全員が立ち上がり確認するように体を動かしている。
「しかし、驚きました。この男一人に我々が手も足も出なかった」
「何者でしょうか」
ピアスの男は気を失ってしまったらしく、うめき声も聞こえなくなった。
「息はあります。救急車を呼びますか」
「いや、鬼童に連絡する」
私が前へ手を出すと、運転席の三輪山がすぐにスマホを差し出した。
「ええ? 鬼童の者ですか、この男」
「それにしては小さくないか?」
「まだ成人していないんでしょう。ずいぶん若い顔つきだし」
花野が男を上から覗き込んで、つんつんと細い指で触れる。
「恐らくな……。一度、京の屋敷で見た覚えがある」
「なるほど、鬼童ならあの馬鹿力もうなずける」
「ああ、俺など一撃で骨まで断ち切られたぞ」
「私は喉を裂かれました。首が落ちる一歩手前でしたよ」
花野らが騒ぐ中、私は画面を操作してスマホを耳に当てる。
すぐに恭介が出た。
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