18 女

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『冬十郎か? 珍しいな、どうした?』 「ああ、恭介。お前のところの若いのを引き取りに来て欲しいのだが」 『若いの?』 「名前は分からぬが、ピアスをいくつも付けている男だ」 『あー、ピアスってぇと岬か? なんでまた』 「全身火傷でモールの駐車場に転がっているから、早くしてくれ」 『モール?』 「住所はメールで送る。では」 『ま、待て待て。なんだ? 岬はあんたにオイタでもしたのか?』 「オイタなんてかわいいものじゃない。この男は私の……」  言いかけて、姫を見る。  『私のもの』というとまるで所有物のようで、その言いようは私の好むところではない。  この子は私の、何だろうか。  娘でも恋人でもない。  姫は、私の……。 『冬十郎?』 「私の……大事な子に、手を出そうとして返り討ちにあった。振られた上に死にかけている。かわいそうだから早く迎えに来てやれ」 『大事な子ぉ? なんだそれは、おいもっと詳しく……!』  まだ何か騒いでいる恭介を無視して、私は通話を切った。 「ここの住所を送ってやれ」  とスマホを三輪山に渡す。 「社長、後は我々が処理しますので」  花野が窓から中を覗き込んでくる。 「立ち入り禁止の看板もそろそろ怪しまれるかも知れませんし、防犯カメラのデータ消去も早めに取り掛からないと。応援呼んでもいいですよね」 「ああ、頼む」 「そこで眠っている社長の『大事な子』についてもいろいろお聞きしたいところですけどね」  花野の後ろから何人かが興味津々という顔を見せる。 「花野たちは、皆冷静だったな」 「ははは。まぁそうですね……。歌を聞いたときはちょっと、いやかなりぞくっとはしましたけど、それだけです」 「そうですよ、社長の女に手は出しませんって!」  花野のすぐ後ろから春野が軽口を言う。 「私の『女』ではない」 「そうなんですか? 俺はてっきり」 「そもそもまだ子供だ」 「でも、その子供を追いかけてきたのは、全員若い男でしたよ。こいつも含めて」  と、春野がピアスの男を見下ろす。 「この子を保護するきっかけも、若い男に襲われていたからだってことでしたよね」 「ああ……」  あの金髪の男も確かに若かった。  姫の体はかなり華奢だが、佐藤は中学生くらいだと言っていた。  そうすると、今ちょうど思春期だ。  少女から大人の女へと体が変わっていくのにあわせて、本能的に求めるものが変わってきているのかもしれない。  生殖可能な体になれば、必要なものは『親』ではなく『若い雄』か……。  血で汚れた姫のあどけない寝顔に、ぞわりと悪寒のようなものを覚えて首を振る。 「三輪山、出してくれ」 「は、はい」  花野と春野がまだ何か言いたそうだったが、三輪山は静かに車を発進させた。
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