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『冬十郎か? 珍しいな、どうした?』
「ああ、恭介。お前のところの若いのを引き取りに来て欲しいのだが」
『若いの?』
「名前は分からぬが、ピアスをいくつも付けている男だ」
『あー、ピアスってぇと岬か? なんでまた』
「全身火傷でモールの駐車場に転がっているから、早くしてくれ」
『モール?』
「住所はメールで送る。では」
『ま、待て待て。なんだ? 岬はあんたにオイタでもしたのか?』
「オイタなんてかわいいものじゃない。この男は私の……」
言いかけて、姫を見る。
『私のもの』というとまるで所有物のようで、その言いようは私の好むところではない。
この子は私の、何だろうか。
娘でも恋人でもない。
姫は、私の……。
『冬十郎?』
「私の……大事な子に、手を出そうとして返り討ちにあった。振られた上に死にかけている。かわいそうだから早く迎えに来てやれ」
『大事な子ぉ? なんだそれは、おいもっと詳しく……!』
まだ何か騒いでいる恭介を無視して、私は通話を切った。
「ここの住所を送ってやれ」
とスマホを三輪山に渡す。
「社長、後は我々が処理しますので」
花野が窓から中を覗き込んでくる。
「立ち入り禁止の看板もそろそろ怪しまれるかも知れませんし、防犯カメラのデータ消去も早めに取り掛からないと。応援呼んでもいいですよね」
「ああ、頼む」
「そこで眠っている社長の『大事な子』についてもいろいろお聞きしたいところですけどね」
花野の後ろから何人かが興味津々という顔を見せる。
「花野たちは、皆冷静だったな」
「ははは。まぁそうですね……。歌を聞いたときはちょっと、いやかなりぞくっとはしましたけど、それだけです」
「そうですよ、社長の女に手は出しませんって!」
花野のすぐ後ろから春野が軽口を言う。
「私の『女』ではない」
「そうなんですか? 俺はてっきり」
「そもそもまだ子供だ」
「でも、その子供を追いかけてきたのは、全員若い男でしたよ。こいつも含めて」
と、春野がピアスの男を見下ろす。
「この子を保護するきっかけも、若い男に襲われていたからだってことでしたよね」
「ああ……」
あの金髪の男も確かに若かった。
姫の体はかなり華奢だが、佐藤は中学生くらいだと言っていた。
そうすると、今ちょうど思春期だ。
少女から大人の女へと体が変わっていくのにあわせて、本能的に求めるものが変わってきているのかもしれない。
生殖可能な体になれば、必要なものは『親』ではなく『若い雄』か……。
血で汚れた姫のあどけない寝顔に、ぞわりと悪寒のようなものを覚えて首を振る。
「三輪山、出してくれ」
「は、はい」
花野と春野がまだ何か言いたそうだったが、三輪山は静かに車を発進させた。
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