18 女

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 半分朦朧としている姫の服を脱がせて、こびりついた血をシャワーで洗い流した。  怪我の有無を確認するために昨夜も見たが、健康とは言い難い痩せぎすの体だ。  女を感じさせない少女の薄い肢体に欲情などしないが、嫌な罪悪感はある。  裸体を預けてくる様子が無防備すぎて、胸がざわつく。 「どこか痛いところは無いか」 「冬十郎様……」 「どうした?」 「冬十郎様は、痛く、ないですか……」 「ああ、とうに傷は消えた」  姫が瞬く。 「消えた……?」  刺されても撃たれても死なない体は、気味が悪いと思われるだろうか。  躊躇いながら、うなずく。 「怪我は、すぐに治る。そういう体だ」  血で汚れたセーターはすでに脱ぎ捨てていたが、その場でインナーも脱いで背中を見せる。  姫の小さな手が私の背中に触れた。 「ほんとだ……よかった……」  姫は屈託なくふにゃっと笑った。  ほっと安堵して、なぜだか少し泣きたくなった。  体を拭いて着替えさせても、姫はまだふらついていた。  寝室に運んでベッドに横たえさせてやると、姫は枕に抱きつくようにしてぎゅっと顔を押し付けた。 「姫?」  スー、ハー、とゆっくり深呼吸して、姫が枕から顔を上げた。 「戻って来られると思わなかったから……」 「え」 「ほかの人にさらわれずに、ここに戻って来られた、から……すごく……うれ、し……」  そのまま枕に顔をうずめるようにして、また眠ってしまった。  ドライヤーをかけてやるのは無理そうなので、姫の濡れた髪の下にタオルを敷いた。  浴室に引き返して自分の髪や体についた血も洗い流し、戻ってきてまた姫のタオルを替える。  安心しきった寝顔を見て、私もその隣に身を横たえる。  少し、疲れていた。  あんなひどい怪我は何十年ぶりだろうか。  十年以上も年寄りのふりをしていたせいか、相当体が鈍っている。  あんなナイフも避けられないとは……。  傷はすぐに治っても、死ぬような痛みは体力と気力を削る。  姫の寝息をすぐそばに聞きながら、私は瞼を閉じた。
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