19 恭介

1/5

184人が本棚に入れています
本棚に追加
/169ページ

19 恭介

「冬十郎、いるかぁ?」 「いけません、鬼童様」 「なんだ、寝所に入るぐらい奴は気にせぬぞ」 「いえ、今はご当代様お一人ではありませんので」 「あー、あれか、大事な子ってのを連れ込んでいるわけか。かまわんよ。それを見に来たのだ」  ドアの外が騒がしい。  体が重い。  瞼も重い。 「失礼いたします、ご当代様。鬼童様がいらっしゃいまして」 「邪魔するぞ」 「あ、鬼童様!」  ドアの開く音がして、私は仕方なく重い瞼を持ち上げた。 「恭介……?」 「よう冬十郎」  枕元で、大男がニカッと歯を出して笑っている。 「ひどい目覚めだ……」 「鬼を返り討ちにする恐ろしいお姫様を拝みに来たぞ」 「大きな声を出すな。姫が起きてしまう」  半身を起こしつつ、恭介を睨む。  しかし、次の瞬間、恭介のにやけた顔が凍り付いた。  息を呑むように私の隣を凝視する。  ああ、いけない。  あの吹き抜けのホールでいくつも見せられた顔と同じだ。  心臓を鷲掴みにされた男の顔だ。  振り返る。  姫が身を起こして、眠気の残るとろんとした目で恭介を見ていた。  とっさに姫の頭ごと抱き寄せて、胸に隠す。 「冬十郎様……?」  ぴぃん、とその場の空気が張りつめる。 「何をしている、冬十郎」 「私の大事な子だ、恭介」  もしも恭介が力ずくでかかってきたら、素手では全くかなわない。  何をされても死にはしないが、また姫に怖い思いをさせることになる。   駐車場で襲われた時に思い知らされた。  姫は私に執着している。  私の身に何かあれば、姫はまた力を暴走させてしまう。 「恭介、そのまま、回れ右して帰ってくれ」 「なぜ怯えている。俺があんたに何かするとでも?」 「何もする気が無いなら、そんな怖い目をしてくれるな」  自分の無力を痛感する。  ことが起きれば、私は姫を守ることも、恭介を守ることもできない。
/169ページ

最初のコメントを投稿しよう!

184人が本棚に入れています
本棚に追加