19 恭介

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「顔を上げろ、女」  姫がビクッとして、ゆっくり恭介の方に顔を向けた。 「あなたも、わたしをさらうの……?」  恭介と姫が睨み合う。  恭介の喉がゴクリと鳴るのが聞こえた。 「なんて目で俺を見る……」  恭介が一歩、こちらに足を踏み出す。  姫の細い指が私のシャツをぎゅっとつかんだ。 「はっ、ははは」  恭介が乾いた声で笑う。 「なんだこの女、とんだ阿婆擦れじゃないか。冬十郎にしがみつきながら、俺にも色目を使いやがる」 「色目なんて……!」  言いかける姫を遮って、恭介が蔑むように言う。 「こんな女とはすぐ手を切れ、冬十郎。あんたには相応しくない」  ぶわっと強い風が吹いた  一瞬で恭介が炎に包まれる。 「あぁ!」  悲鳴を上げたのは私だった。 「姫、やめなさい!」 「この人が悪い!」 「姫!」 「冬十郎様から離れろなんて言うから……! この人が悪い……!」 「だめだ、姫」 「でも……冬十郎様、殺さなければいいんでしょう?」 「違う、そういうことじゃない……!」  炎がどんどん大きくなり、こちらにまで熱が伝わってくる。  姫は唇を歪めて、恭介を睨んでいる。  どういうことだ。  破れたドレスで震えていたのはつい昨日のことなのに、まるで別人のようだ。 「ほう、火の幻覚か」  恭介が炎の中で呟く。  そして、何かを振り払うように大きく右手をかざした。  それだけで、炎が小さくなった。  体のどこにも、ピアス男のような火ぶくれはできていなかった。 「ふん、他愛無いな」  低く笑い、その右手をぎゅっと握り込んだ。  同時にふっと炎が消えた。
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