184人が本棚に入れています
本棚に追加
/169ページ
「おい、冬十郎、レジストしろ」
「れじすと……?」
「幻術への抵抗だ。俺にレジスト出来るものを、あんたが出来ないわけがないだろうが」
姫の精神干渉を跳ね返せということか。
やろうと思えば、多分、できる。
だが。
「……れじすと、したくはない……」
「はぁ? さっきからあんたの言動は、まったく意味不明だな」
この糸が姫の私に対する執着ならば、無理に引き剥がすことは拒絶を意味する。
力尽くで拒絶すれば、姫をいっそう不安にさせるだけだ。
「姫…………ひ、め……」
苦しい息の下、必死で呼びかけると、姫が顔を上げた。
そして、糸に縛られた私を見てぎょっとしたように目を見開く。
とたんにパシッとすべての糸が霧散した。
急に息が吸えるようになって、私は軽く咳き込む。
残滓のようなものがキラキラと周囲に舞う中、姫が両手で自分の口を押えた。
「わたし、今、何を……?」
「何でもない。姫、何でもない……」
姫を抱き寄せ、頭を優しくポンポンと叩く。
呆然としたようにこちらを見ている恭介に片手を振って見せる。
「恭介、話は後にしよう。私は、疲れてしまった……」
「呆れ果てた男だな」
「心配してくれたのは分かっている、だが……」
「もうよい。共感はできぬが、理解はした。あんたは自分から望んで危険な女に手を出したのだな」
「ああ……」
手を出したという表現は正しいとは言えぬが。
「私の意志で、この子を保護した。手放す気は無い」
最初のコメントを投稿しよう!