03 親ではない何か

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「や……」  ぞわり、と悪寒が走った。  キンパツの手がスカートの中で下着をまさぐってくる。 「やだ……や……」  ぞわぞわと寒気がする。  汚い。  気持ち悪い。  汚らわしい。  吐き気がする。  こんなのは違う。  こんなのは『親』じゃない。  こいつは『親』じゃない! 「いや!」  叫ぶと、空気がピリッと震えた気がした。 「触らないで!」  キンパツが息をのんだように固まった。  わたしはその下から這うようにして逃れる。 「サ、キ……お前……」  キンパツがすごい形相でこちらに手を伸ばしてくる。 「いや! 来ないで!」  悲鳴のように叫ぶ。  何かに押し戻されるように、キンパツが一歩、後ろに下がった。 「は、離れて! 近づかないで!」  また、一歩、キンパツの足が後退する。 「サァ、キィー……」 「やめて! わたしはサキじゃない!」  全身全霊で叫ぶ。  キンパツは弾かれたように後ろへ倒れた。 「お前……今、何をした……?」  キンパツの充血した両目がこちらを睨んでくる。 「え、なに……」  怖い。  わたしは震えながら立ち上がり、その場を離れようと足を踏み出した。 「ひっ」  だが、わたしが進んだ分だけ、キンパツもじりっと近づいて来る。 「逃げるな、サキ。お前は俺のもんだ……!」 「いや……誰か……」  誰か、助けて。  わたしは廃工場の中を、助けを求めて視線をめぐらした。  壊れかけたブラインドから、外の光が差し込んでいる。  埃をかぶった機械類が無機質に光る。 「たすけて」  かすれた声が喉から漏れる。  まるでそのタイミングを計っていたかのように、奥の扉がぎぃっと軋んで開かれた。  ひゅっと小さくわたしの喉が鳴った。  扉を開いたのは、背の高い男の人だった。黒っぽいロングコート姿で、長い髪を後ろで一つに束ねている。 「なんだ、てめぇ」  キンパツがチンピラのようにすごむのを、男の人は硬い表情をして見返した。  ズボンのベルトが外れているキンパツと、破けたドレス姿で震えているわたしを順に見て、無言のままゆっくり室内に入ってくる。  カツン、カツン、と革靴の音が殺風景な工場内に響く。 「な、なんだてめぇ」  キンパツが同じセリフを繰り返すのを、男の人が軽蔑の目で睨んだ。 「強姦か」 「うるせぇ!これは俺の女だ!」  殴り掛かるキンパツをさっと避けて、男の人がキンパツのみぞおちを蹴った。  キンパツがうずくまって咳き込む。 「おや、気絶させるつもりだったのに……。荒事は久しいせいか、どうも鈍っているようだ」 「何をごちゃごちゃ言ってやがる!」  また大振りで殴り掛かるキンパツ。  男の人が避けざまに手刀でその首をとん、と叩いた。  キンパツがどさっとその場に崩れた。  気絶したらしく、その後ピクリとも動かない。  男の人は確認するようにキンパツを上から見下ろした。  一つに束ねている髪が、さらさらと肩の上を滑った。
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