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恭介はふうっと息を吐いて、握った右手のこぶしを開いて見せた。
手のひらが赤く焼け爛れている。
「それは……?」
「さっきの火の幻覚だ。完全にはレジストできなかった」
「すまない……」
頭を下げると恭介は首を振った。
「あんたに謝ってほしいわけじゃない。これがどれほど危険な力か、知っておいた方がいいと思うだけだ。成長すれば、さらに力は強くなるぞ。制御できない脅威とみなされれば、鬼童としては放置できなくなる」
「そこまで危険視しなくても……」
「鬼の頭領に火傷を負わせ、蛇の頭領を骨抜きにする。その事実だけで相当にヤバイ代物だと判断されるさ」
私は姫を抱いている腕に力を込めた。
「姫については私がすべての責任を負う。ずっと私がそばにいる。最後まで」
姫の手が背中に回され、強く抱き返してくる。
それだけで、胸の内に喜びが沸き上がる。
「……大丈夫、安心しなさい」
柔らかくて、温かくて、ただただ愛しい存在。
巻きついてくる執着の糸を、少しも恐ろしいとは思わなかった。
むしろ、自分に向けられる強い想いに私はどこか喜んでいた。
「姫……」
少し傷んでいる髪の毛を丁寧に優しく撫でる。
「あんたのそんな顔は初めて見るな」
瞬きして恭介が言った。
「どんな顔だ?」
「うーん、少々だらしない顔だな」
「は?」
恭介の口から苦笑が漏れる。
「まぁ、いずれあんたの手に負えなくなったら、その化け物はいつでも鬼童で預かるよ」
姫が身じろぎして、体の向きを変えた。
私からはよく見えないが、多分、恭介を睨んでいる。
私の目にはずっと儚げで不憫なかわいそうな子と映っていたが、もしかしたら内面は意外に気が強い子なのかもしれない。
恭介が降参というように両手を軽く上げた。
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