184人が本棚に入れています
本棚に追加
/169ページ
20 深紅の薔薇の森
甘い匂いに包まれて、うっとりと微睡みにたゆたう。
冬十郎と同じベッドで眠る日々。
甘い匂いを吸いたいだけ吸って、手を伸ばして温かい体に触る。
規則正しい寝息を聞いて、時々、こっそりと心臓の音を聞く。
満たされている。
うっすらと目を開ける。
横にきれいな冬十郎がいる。
瞳の中に閉じ込めるように、また瞼を閉じる。
このまま、冬十郎の姿だけを見て、冬十郎の声だけを聴いて、冬十郎の匂いだけを嗅いで、世界を完結させたい。
わたしの生きる世界に冬十郎以外のものはいらない。
あの時冬十郎が口走ったように、わたしをつないで閉じ込めてくれたらいいのに。
鎖につながれ、鳥籠に閉じ込められたら、わたしは囀る小鳥になろう。
いつでも冬十郎一人のために歌うよ……。
「姫……」
うん、分かっている。
優しい冬十郎は決してそんなことはしない。
いっそのこと、わたしが冬十郎をつないで閉じ込めてしまおうか……。
誰にも冬十郎の姿を見せず、誰にも冬十郎の声を聴かせない。
いいな、それ。
冬十郎を永遠に独り占めできる……。
「姫、ここから出してくれないか」
優しくて、けれど、少し途惑った様子の声で目が覚めた。
「あ、れ……?」
ベッドが茨の森の中にあった。
アニメのようにデフォルメされた大きな棘の目立つ茨だ。
まだ夢の中だろうか。
冬十郎の右の手首に蔦が絡まって、赤い薔薇が咲いていた。
「きれいだが、少し痛いな」
冬十郎はもがいたり、振りほどこうとしたりせずに、ただ困った顔でわたしを見下ろしていた。
これは多分、昨日の夜冬十郎が読んでくれた絵本のせいだなと、ぼんやり思う。
部屋中が、鋭い棘のついた茨に侵食されている。
棘の檻に、囚われの冬十郎。
蔦に絡まる長い黒髪、白い手首に食い込む茨の棘、やけに絵になる。
最初のコメントを投稿しよう!