20 深紅の薔薇の森

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20 深紅の薔薇の森

 甘い匂いに包まれて、うっとりと微睡みにたゆたう。  冬十郎と同じベッドで眠る日々。  甘い匂いを吸いたいだけ吸って、手を伸ばして温かい体に触る。  規則正しい寝息を聞いて、時々、こっそりと心臓の音を聞く。  満たされている。  うっすらと目を開ける。  横にきれいな冬十郎がいる。  瞳の中に閉じ込めるように、また瞼を閉じる。  このまま、冬十郎の姿だけを見て、冬十郎の声だけを聴いて、冬十郎の匂いだけを嗅いで、世界を完結させたい。  わたしの生きる世界に冬十郎以外のものはいらない。  あの時冬十郎が口走ったように、わたしをつないで閉じ込めてくれたらいいのに。  鎖につながれ、鳥籠に閉じ込められたら、わたしは囀る小鳥になろう。  いつでも冬十郎一人のために歌うよ……。 「姫……」  うん、分かっている。  優しい冬十郎は決してそんなことはしない。  いっそのこと、わたしが冬十郎をつないで閉じ込めてしまおうか……。  誰にも冬十郎の姿を見せず、誰にも冬十郎の声を聴かせない。  いいな、それ。  冬十郎を永遠に独り占めできる……。 「姫、ここから出してくれないか」  優しくて、けれど、少し途惑った様子の声で目が覚めた。 「あ、れ……?」  ベッドが(いばら)の森の中にあった。  アニメのようにデフォルメされた大きな棘の目立つ茨だ。  まだ夢の中だろうか。  冬十郎の右の手首に蔦が絡まって、赤い薔薇が咲いていた。 「きれいだが、少し痛いな」  冬十郎はもがいたり、振りほどこうとしたりせずに、ただ困った顔でわたしを見下ろしていた。  これは多分、昨日の夜冬十郎が読んでくれた絵本のせいだなと、ぼんやり思う。  部屋中が、鋭い棘のついた茨に侵食されている。  棘の檻に、囚われの冬十郎。  蔦に絡まる長い黒髪、白い手首に食い込む茨の棘、やけに絵になる。
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