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わたしはまだ寝ぼけているふりをして、体をずらして冬十郎の膝に頭を乗せた。
冬十郎は動かせる左腕でわたしの体を撫でる。
「まだ眠いのか」
冬十郎は、こんなことをされているのに怒っていない。
「んー……」
わたしはその優しさに付け込んで甘える。
冬十郎の体がじんわりと温かい。
撫でてくれる手も優しく温かい。
わたしの心を映すように、薔薇の蕾がいくつもいくつも開いていく。
部屋を埋め尽くす薔薇の森。
すべて開くと数百本、いや数千本だろうか……圧巻の光景が広がっていく。
冬十郎が感嘆するように息を吐いた。
「美しいな……」
日に日に、自分の力が強くなるのを感じている。
理由は分かっている。
わたしは、自分をさらおうとするピアスの男を炎の幻覚で退けた。
あの日、あの瞬間に、わたしは自分が無力ではないことを知った。
強い力さえあれば、自分で自分の居場所を選べることを知った。
だから、望んだ。
もっと、力が欲しい。
もっと、強くなりたい。
邪魔するものをすべて、排除できるくらいにと。
あれ以来、毎日、意識的に力を使うようにしている。
半径2mくらいまでしか届かなかったものが、部屋いっぱいまで広げられるようになっている。
ただ、あまり安定はしていない。
わたしの力は、その時々の感情に、強く左右されてしまうから。
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