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「満開だ……」
冬十郎が花々を見回して微笑む。
黒髪の美青年と深紅の薔薇の森。
「姫、本当に美しいな」
冬十郎は嬉しそうにわたしに笑いかけた。
そのきれいな笑顔を見るだけでわたしの胸がふわぁっと暖かくなってくる。
それに呼応するように部屋中の薔薇の花がぱぱぱっと一斉に弾けた。
無数の赤い花びらが冬十郎の上に舞い落ちてきて、はらはらと消えていく。
「すごい……」
冬十郎の瞳がきらめき、頬がほんのりと赤い。
最後のひとひらが消えるまで、余韻を楽しむように冬十郎はじっと見ていた。
「おはようございます……冬十郎様」
「おはよう、姫」
眩し気に目を細めて、冬十郎が両手で抱きしめてくれた。
「よく眠れたか」
「はい」
わたしの頭にポンポンと軽く触れて、冬十郎はするりとベッドから降りた。
茨の森に囚われたことについては、何も言わなかった。
こういう現象も増えてきているけれど、いつも冬十郎はわたしを責めたり注意したりしない。
清香やあの大男が言っていたことにも触れようとしない。
わたしみたいな『タチの悪い化け物』を、ただ静かに受け入れている。
「いい天気だ……。午後は少し散歩でもしようか」
部屋中のカーテンを開けていく冬十郎をぼんやりと見つめる。
「お散歩、行きたい……楽しみです」
冬十郎がそばにいる。
わたしには、それだけでいい。
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