21 男

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「お嬢様はいつまでここにいるつもりでしょうか」 「冬十郎様がここにいる限りここにいます」  即答する。  特に気分を害した様子はなく、七瀬は穏やかに質問を重ねた。 「ご当代様がここを離れた時には」 「ついて行きます」 「ついてくるなと言われたら?」 「言わないと思います」  冬十郎はわたしをずっと守ると誓った。  そばにいると何度も何度も言ってくれた。  七瀬だって、冬十郎がわたしに言うのを聞いたことがあるはずなのに、なんでそんなことを言うんだろう。  冬十郎にどこか似ているその顔を、つい睨んでしまう。  けれど、七瀬は穏やかな態度を崩さない。  微笑んで、紅茶で唇を湿らせると、また質問してくる。 「ご当代様をどう思っていらっしゃるのですか」 「どう?」 「男として見ていらっしゃるのかと、お聞きしたいのですが」 「男として?」  冬十郎は男の人だけれど、それが何だというんだろう。  わたしは首をかしげた。 「そういえば冬十郎様も、男とか女とかを気にしていたけれど、どういう意味かよく分からなかった……」 「気にされていた?」 「ほかの男の親とも一緒に寝ていたのかって聞かれて」 「なぜそのような質問をされたのか分からないのですね」 「男でも、女でも、親は親だし……」  親が男だろうと女だろうと何の違いもなかった。  わたしに自分好みの服を着せたり、自分好みの呼び方をさせたりするのは同じで……。  七瀬は少し黙り、また紅茶を口に含んだ。  喉ぼとけがゆっくり動くのが見えた。 「先日、ご当代様とお話しされているのを聞いてしまったのですが、廃工場で男にスカートの中に手を入れられたのが、すごくお嫌だったのですよね?」  わたしはビクッと身を固くした。 「嫌でした」  寒気がする。  なんで、そんな嫌なことを急に話題にするんだろう。
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