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「お嬢様、少し……あなたの首に触れてみてもよろしいでしょうか」
「え、首?」
「お嫌ですか?」
「いえ、別に」
「では、失礼して……」
七瀬が右手でわたしの首に触った。
首と言ったのに、耳にも指を滑らせてきて、さらに鎖骨をなぞる様に撫でていく。
ぞわぞわして、落ち着かない。
『親』達が子供であるわたしに触れたのとは、何かが違う。
なんだか、七瀬の手は……。
「い、いやっ」
わたしは七瀬の手をぱしりと払っていた。
七瀬が驚いたように手を引っ込める。
「失礼しました」
「あ、ご、ごめんなさい」
「いえ……。どういう感じがしましたか」
「え」
「私も蛇の一族ですから、容貌は冬十郎様と比べてもそれほど劣ってはいないと思いますし、不潔でもないし、乱暴でもない。でも、嫌だったのですよね」
七瀬は怒るわけでもなく、わたしを観察するような目で見た。
「嫌っていうか、なんか、その……気持ち悪かった……」
「そうですか。触られるのも気持ちが悪いのに、なぜそんな誘うような目をするんですか」
どくんと心臓が鳴った。
誘っていない。
言おうとしたけど、声が出なかった。
ずっと穏やかだった七瀬の目の色が、突然、冷ややかなものに変わった気がした。
ぴぃん、と空気が張りつめる。
「私は、元々は里のお方にお仕えしておりました。ですから、ご当代様よりずっと古いことを存じております。はるか以前に、その目と同じものを見たことがあります。あなたの目は良くない。本当に良くない。多くの者を死へ追いやる目です。どうぞ、使い方を間違われませんよう……」
「姫!」
その声は、破裂しそうなくらいに張りつめた空気を、風船を割るみたいに簡単に打ち破って耳に届いた。
「冬十郎様!」
叫ぶと同時に、本当にぱぁんと破裂音がして、紙吹雪が周囲に吹き荒れた。
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