22 淫らな女

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22 淫らな女

 赤、青、黄色、ピンクにオレンジ、色とりどりの紙吹雪が空に舞う。 「おお、大歓迎だな。今日は七瀬とお茶を飲んでいたのか」  にこにこと笑いながら、カラフルな色の渦の中を冬十郎が近づいてくる。 「私にも茶をもらえるか」  冬十郎が言いながら席に着くと、ハッとしたように七瀬が立ち上がった。 「あの、これは……?」  落ちてくる大量の紙吹雪を、少し怯えたように見上げている。 「姫の力だ。幻覚だから、掃除はいらぬぞ」  紙吹雪は地面に落ちた瞬間にすーっと消えていく。 「見事であろう」  まだまだ大量に舞っている色の渦を二人が見上げる。 「はい……」  降り注ぐものを受け止めるように七瀬が空に両手を差し出す。  だが、幻覚の紙吹雪は手に触れる端からキラキラと弾けて消えてしまう。 「幻覚とは、禍々しきものとばかり思っておりましたが……」 「それだけとは限らぬよ」  七瀬は紙吹雪がすべて消えるまで見届けると、一礼してお茶の用意のためにキッチンへ戻っていった。 「七瀬と何の話をしていたのだ」 「よく、分かりませんでした……」 「難しい話だったのか」  わたしは席を離れ、冬十郎の目の前に立った。 「どうした、姫」 「冬十郎様、わたしの首を触ってください」  冬十郎は途惑ったようにわたしを見た。 「お願いします。触ってください」  冬十郎の両手がゆっくり持ち上げられる。  大きくてあったかい手がわたしの首を包んだ。 「姫の首は細いな」  じんわりと、温めるように、冬十郎の手は動かない。 「あの……耳を撫でたり、鎖骨をなぞったり、してみてください」 「こうか」  冬十郎の両手が、七瀬と同じように動いていく。  七瀬の時と同じように、少しぞわぞわとした。  でもすぐに、うっとりと、とろけるように気持ち良くなっていく。 「どうして泣く」  問われて、涙が出ていることに気付いた。 「分からない……。わたし、冬十郎様がいい」 「そうか」 「冬十郎様がいい……」
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