184人が本棚に入れています
本棚に追加
/169ページ
23 悪い魔女
冬十郎は三百年近く生きている。
不老だけど、不死じゃない。
でも、自分で死のうと思わない限り、死なない。
だからナイフで刺されても、すぐに傷が消えたんだ。
今日、いろんなことが分かった。
けれど、やっぱりそんなことはどうでもいいことだと思う。
冬十郎は、わたしのそばにいると誓ってくれた。
重要なのは、それだけだから。
「……そうして二人は、いつまでも幸せに暮らしました。……おしまい」
パタン、と冬十郎が絵本を閉じた。
眠る前のベッドの上で、冬十郎が絵本を読んでくれる。
今日は髪の長いお姫様のお話だった。
あのモールで、冬十郎はお姫様の絵本をたくさん買ってくれた。
先生に字を習ったから本当は一人で読めるけれど、冬十郎が読んでくれるというのにわざわざそれを主張したりしない。
冬十郎に寄り掛かって、うっとりとその声を聞く。しっとりと低くて穏やかで、わたしをとても安心させる声だ。
「どうして王子様は、塔からお姫様を連れ出して、ほかの塔に閉じ込めなかったんですか」
冬十郎が瞬く。
「閉じ込める?」
「この前読んでくれた本では、王子様は茨に覆われたお城からお姫様を救い出して、自分のお城に閉じ込めましたよね」
「え……」
冬十郎が背中に敷いていたクッションから身を起こした。
その肩に寄り掛かっていたわたしも一緒に身を起こす。
「何か、違いましたか……?」
「姫、王子は姫を閉じ込めたりしない。人を閉じ込めるというのは悪いことだ」
「悪いこと?」
「ああ、閉じ込めるというのは自由を奪うということだ。悪い魔女によって塔に閉じ込められていたから、そして前読んだお話では茨のお城に閉じ込められていたから、王子は姫を救いたいと思ったんだ」
「救い出した後は、閉じ込めないんですか……?」
わたしをさらった『親』はみんな、わたしを家から出さないように閉じ込めていたけれど。
わたしを保護した冬十郎だって、わたしをここから出さないように閉じ込めているけれど。
「閉じ込めたりはしない。救われた後のお姫様は行きたいところにいつでも行けるし、会いたい人にいつでも会える。王子に救われて自由になったんだ」
「そう、ですか……」
「姫?」
「なんだか、少し、怖いです……」
救われるのは嫌だな、と思った。
行きたいところに行って会いたい人に会えと言われても、わたしにはどうしていいのか分からない。
「わたしがここにずっと閉じ込められていたら、いつか誰かが救いに来るんでしょうか」
返事が無かった。
冬十郎は傷付いたような顔をして、わたしを見ていた。
最初のコメントを投稿しよう!