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怖いか?
冬十郎が怖いか?
息が、胸が、急に苦しくなった。
どうしてそんなことを聞くんだろう。
わたしが無言でいると、さらに問いを重ねてくる。
「気味が悪いと、思うか?」
冬十郎は相変わらず、優しいけれど無自覚に残酷だ。
もしも『気味が悪い』と答えたら、簡単にわたしを手放す気なんだろうか。
出会って、保護してもらってから、とにかく毎日べたべたとくっついて甘えて抱きついてくるわたしを、何だと思っているんだろう。
行き過ぎた慕情が目に見えるほどに溢れて、茨の森まで作ってしまうわたしを何だと思っているんだろう。
遠雷が聞こえる。
ゴロゴロと地の底から這い寄るような雷鳴が近づいている。
冬十郎が途惑ったように、窓の外を見た。
とたん、部屋の中にザーッと豪雨が降り注いだ。
「わ……」
片手を顔の上にかざした冬十郎がみるみる内に濡れていく。
冬十郎は口を開き、何も言わないままわたしを見た。
冷たく叩きつける雨に打たれて、少し息苦しそうだった。
その横にドォンと激しい音で雷が落ちる。
ビクッと身をすくめた冬十郎の、反対側にまたもう一つ落ちる。
目に見える槍のような雷だ。
触れれば一瞬で黒焦げになりそうなそれが、冬十郎の逃げ場を塞ぐように左右でバチバチと火花のように放電している。
「わたしが怖いですか?」
同じ問いかけを返した。
「気味が悪いですか?」
冬十郎は瞳を揺らした。
そして、泣きそうな顔でわたしを見た。
わたしも冬十郎を見つめ返した。
冬十郎。
冬十郎。
お願い、わたしを拒まないで。
雨の中、蒼ざめた顔で冬十郎はゆっくりとこちらへ両手を広げた。
ぐっしょり濡れてかすかに震えているその両腕に、わたしは飛び込んだ。
抱き合った瞬間に雷雨は消えた。
わたしが消したからだ。
幻覚の残滓、虹色の光の粒がキラキラと降り注いで、冬十郎を照らしている。
豪雨は幻覚だったから冬十郎の体は濡れていないけれど、冷えてしまったのか、まだ少し震えている。いつもゆったりとしている冬十郎の呼吸と鼓動が、今は少しだけ速いようだった。
雷はやりすぎだったかもしれない。
でも。
「冬十郎様がもしわたしを怖いと言っても、わたしは離れてあげません」
わたしは宣言する。
冬十郎の体がぶるっと震えた。
「ごめんなさい、雨で冷えてしまいましたか」
「これは、寒いわけでは」
「え」
「いや……もう少し、温めていてくれ」
「はい……冬十郎様……」
体をぴったりくっつけるようにして、わたしは冬十郎を温めた。
翌朝、目覚めると、シーツが赤く汚れていて、冬十郎は真っ青になって狼狽えた。
黒スーツの一人の花野という女が来て、それが何かを教えてくれた。
初潮だった。
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