24 耽溺

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 結局、あれから数ヶ月、絵本の悪い魔女さながらに姫を閉じ込めている。  鎖につないだりはしないだけで、軟禁状態に変わりはなく、姫に自由は無い。  私がやっていることは、今までの誘拐犯と何も違わない。  ただ、守るためだと言い聞かせて、自分の独占欲を押し付けている。  姫がまた歌い出した。  ふわふわと丸く透明なものが周囲に舞い始める。  シャボン玉の幻影だ。  虹色に淡く輝きながら、ゆらゆらと上へのぼり、天井に着く前に弾けて消える。  無数のシャボンが泡のように見えて、まるでソーダ水の中にいるようだ。 「シャボン玉……気に入ったのか」 「とてもきれいだったから」 「そうか。今日は天気が悪いから、また晴れたらテラスでしよう」 「はい」  七瀬が先代の屋敷のある里に伺いを立てるとすぐに面会の許可は下りた。  だが、姫が初潮を迎えたこともあって、体調が優れないと言い訳をしていまだに里の屋敷へは連れて行っていない。  正直、気が乗らなかった。   姫の血族かもしれない淫らな女の話を聞いて以来、私は七瀬と三輪山以外のすべての男にマンションに入ることを禁じた。別のマンションを一棟買って、ここに住んでいた一族の男を全員移住させたのだ。  私が外へ出なければならない場合には、女性である花野に姫の護衛を命じている。  私個人の独占欲丸出しの命令にも、ここにいる一族は従ってくれる。  だが、里の屋敷では姫から男を遠ざけろと命じても、それは通らないだろう。  あそこには男が大勢いる。全員が私よりはるかに年寄りだが、見た目は若い男達だ。そして、当代の私の命令よりも、先代の言葉を優先する輩ばかりだ。  溜息が出る。  ゆらゆら揺れるソーダ水の世界を見上げていると、姫が抱きついてきた。  その無防備な細い腰に手を回す。  パジャマを通して、体温が伝わってくる。  強い衝動に駆られる。  目の前の白い首に吸い付いて、いくつも跡を残したい。  パジャマを剥がして、その細い体を組み敷いてしまいたい。 「冬十郎様、いい匂いがする……」 「そうか……」  だが、無邪気で無防備な姫の笑顔を壊したくはない。  優しくその頭をポンポンと叩く。  自分自身の鉄壁の自制心が、少し、呪わしい気がした。
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