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25 裏稼業
夜中というには早い時間だったが、姫に合わせて生活する私はすでにベッドに入っていた。スマホが枕元で鳴り出したので、姫を起こさないよう慌てて出る。
『すぐに来てくれ。清香が……』
恭介からの電話だった。
都内のホテルで人が死に、清香が一緒にいたらしい。
我ら一族はまず死ぬことはないので清香については心配はいらないと思うが、何か訳ありのようだった。
裏稼業の方の社員を連れて来て欲しいと言う。
「分かった、すぐに行く」
通話を切ってベッドから出ようとすると、隣で姫がゆっくりと起き上がった。
「すまない、起こしたか」
姫はあくびをして、幼い仕草でうーんと伸びをした。
「どこかへ行くのですか」
「ああ。少し出てくる。護衛に花野を呼ぶから」
「はい……」
ぼんやりと私を見る姫に、顔を近づける。
「約束は覚えているか」
「はい……ちゃんと、覚えています」
「言ってみなさい」
「ここから、一人で出ないこと。冬十郎様以外の男に触らないこと。冬十郎様以外の男を見つめないこと」
「いい子だ、姫」
顎のラインを指でなぞる。くすぐったそうにする姫の顔を上向かせ、小さな唇にゆっくりと親指を這わす。
微笑むように、ゆっくり姫の口角が上がった。
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