25 裏稼業

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 我らの裏の稼業は掃除屋だ。表に出せない死体の処理をする。死因を違うものに見せたり、死んだ場所を違う場所に見せたり、もしくは死体そのものを無かったことにしたり……。そのための清掃会社とリフォーム会社と葬儀会社だ。  もともと蛇の一族は、はるか平安の昔に鬼童の仕事を手伝っていた。(当時、鬼童は紀童だったらしいが、次第に鬼の字を使うようになったという)  渡辺家の家臣だった鬼童の者どもが『鬼』と呼ばれる異形を退治し、その死体の処理を蛇の一族が請け負っていた。『鬼』と呼ばれる異形は、死してなお呪いを垂れ流し続けるので、処理するのも危険だった。そのため、何があっても死なない我らはその仕事にうってつけだったらしい。  だが時代を経るにつれて次第に『鬼』と呼ばれる異形そのものの数も減り、仕事が無くなってくる。『鬼』を退治するものである鬼童のことを、人々が畏怖を込めて『鬼』と呼ぶようになったのもこのころだという。  幸運なことに、平穏な江戸の世で、蛇の一族は山田家に仕えることが出来た。  仕事は、刑場で処刑された罪人の死体の処理だった。人間の死体は特に危険ではないが、我らは死体の扱いに慣れていたのでとても良い仕事だった。  やがて明治の代となって仕える家もなくなり、その頃に一族の頭領となっていた私は己で起業することにした。それが加賀見葬儀社だ。いつの世でも人は勝手にどんどん死んでいく。人の死にかかわる仕事はけっして無くならない。本当に安定していて良い仕事だと思う。  鬼童と蛇の一族は長い間疎遠になっていたが、鬼童の頭領の座を恭介が継いだ頃、また仕事を請け負うようになった。頼まれるのはやはり死体の処理だったが、人間の死体のほかに、たまに角の生えたものや獣の耳や尾が生えた異形も混じっていた。恭介は、基本的に平安の頃からやることが変わっていないと言っていた。国のバランスを崩す脅威を刈り取る。いわゆる『退治』というものらしいが、詳しく聞いたことはない。  三輪山が戻ってきて、下の階に部屋が取れたと言った。  私がうなずくと、三輪山はカードキーを恭介に差し出す。 「清香様の着替えも用意しております。少し休まれた方がよろしいかと」  恭介が私を見たので、目線で清香を示して頼んだ。 「連れて行ってやってくれ。少ししたら、様子を見に行く」 「分かった。清香、一人で立てるか」  まだ泣きじゃくって、ふらついている清香を恭介が抱き上げる。 「ごめ……な、さい……」 「あの男はお前を殺そうとしたんだぞ。謝る必要があるか」 「で、でも……私のせい……」 「ほら、いいからもう泣くな」  恭介は子供をあやすような口調で言いながら、清香を抱えて部屋を出て行った。  二人の関係を、私は問い質したことが無い。見ている限りでは、恭介は清香に懸想しているように思えるが、清香の方の気持ちはよく分からなかった。常に男を絶やすことなく、時には複数の男どもと交際しているようだからだ。  だが、清香は今日、死体の横で目覚めた後、私ではなく恭介に電話をした。  つまり、そういうことなのだと思う。 
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