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26 恋という呪い
男の遺体はきれいにして着替えさせ、身分証から調べた自宅の寝室に戻させた。一人暮らしのようだから、明日の朝、友人だか親戚だかを名乗るものが偶然にも遺体を発見することになる。警察にも医師にも話の通じる輩がいるので、男は心不全か何かで死んだことになり、家族が葬儀を上げるだろう。
ホテルの部屋はたいして汚れていないので壁紙や床を張り替える必要はない。今回はワインと嘔吐物の染み抜きぐらいか。原状回復もたやすい。男と背格好の似た者がサングラスでもかけて、チェックアウトすれば終了だ。
一通りの目途が立ったので、私は恭介達のいる部屋を訪ねた。
「入るが、よいか」
「ああ、清香は泣き疲れて眠ったよ」
腕まくりを戻しながら、恭介が出迎えた。
ベッドに寝かせられた清香の目の上に、濡らしたタオルが置いてある。
「遺体の移動は済んだが、これは捨てていいものか、叔母上に聞こうと思ってな」
と白い封筒を見せる。
「そんなもの捨ててしまえと言いたいが……とりあえず預かっておく」
恭介は封筒を取ってテーブルに置き、どかりとソファに座った。
「手間をかけたな、助かったよ」
「なぜ恭介が礼を言う。伯母上のことなら、私が動いて当然だろう」
「そうか……そうだな」
疲れたように恭介は息を吐いた。
「聞いたことが無かったが、もしかして叔母上と恋仲なのか」
「恋仲?」
フッと恭介は鼻で笑った。
「そんないいものじゃない。俺はただ……」
言い淀み、恭介は自嘲めいた笑みを浮かべる。
「俺と清香はたまに寝ている。だが恋人じゃない。俺が何を言っても、清香は他の男と切れてくれないからな。せめて誰か一人に決めてくれれば、まだあきらめがつくさ。だが、清香はいつもころころと男を替えて、それを俺に隠そうともしない……ひどい女だ」
「では、無理心中の原因もそれか」
「多分な……。あのタキシードの男は、清香を殺して自分だけのものにしようと思ったんだろ。普通に殺せる相手なら俺もそうしているさ」
「それは無いな」
「あ?」
反射的に否定すると、恭介が睨んできた。
「お前は女を殺さないだろう。私の知る恭介は、とても優しい男だ」
「言ってろ……」
不機嫌な顔で恭介が黙り込んだので、私は早々に退散することにした。
「部屋の支払いは済ませておく。明日の午前中にチェックアウトしてくれ」
「待て。冬十郎、あの女とはどうなっているんだ」
「女?」
「あんたに執着しているタチの悪い化け物だよ。岬は退院したが、まだ不安定でな。屋敷から出せない状態なんだ。あの恐ろしいお姫さんとはどうなった?」
「別に。どうともなっていない……」
「マンションから男という男をすべて追い出したって聞いたがな」
「何だ、そのことか。分かっていると思うがお前も来るなよ」
「冬十郎……」
恭介はわざとらしいほど大きく息を吐き、「ちょっと付き合え」と立ち上がって部屋に備え付けのミニバーへ向かった。
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