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04 黒髪美人
「ヒメ、というのがわたしの新しい名前なんですか」
もう一度聞くと、黒髪美人は少し困ったようにわたしを見た。
「質問の意図がつかめぬ」
「あなたはわたしの何になりたいんですか」
「何、とは?」
長いまつげが瞬く。
「だから、わたしにヒメと名前を付けて、わたしをどうしたいのか、教えてください」
わたしの『親』になりたいのかどうか。
「君が白いドレスを着ているから『姫』と呼んでみただけだが……。姫という呼び方が嫌なら、本当の名前を教えてくれ」
わたしも困った顔で黒髪美人を見返す。
「本当の名前は分かりません」
床に転がるキンパツを指さし、
「その男は、わたしをサキと呼びました」
と、告げる。
黒髪美人が怪訝そうにキンパツ男を見下ろす。
「その前に一緒にいた男は、わたしをユリエと呼びました」
黒髪美人は怪訝そうな顔のままわたしを見た。
その前の名前は何だったかな……。最近、『親』が変わるサイクルが短くて、付けられた名前になじむ前にどんどん新しい名前になってしまうから。
「サキもユリエも君の名前ではないのだな」
「はい」
「本当の名前は憶えていないということか」
「はい」
「ふむ」
黒髪美人は右のこぶしを自分の唇にそっと当てた。
「誘拐か……。しかもショックで記憶が……?」
小さく呟く黒髪美人に対し、わたしは焦れたようにもう一度質問した。
「あの、あなたはわたしの『親』になりたいんじゃないんですか?」
「親に? まさか。私は君を保護したいだけだ」
「ほご?」
保護。
意味は分かる。
でもわたしには聞き慣れない言葉だ。
「この寒空に子供が破れたドレスで震えているのは、どうにも見ていられぬ。君は靴も履いていないではないか」
黒髪美人はするりと自分のコートを脱いで、わたしに見せた。
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