26 恋という呪い

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「初めてって、いったい何百年前の話だよ」 「正確な数字に意味なんてある? どちらにしても、あなたが生まれる前の話よ」 「つまり、要約すると、叔母上は数百年間ずっと、その男の面影を求めて……?」 「そう、似ている男を次から次へと」  清香が自嘲気味に笑う。 「待ってくれ。その……初めての男がいまだに忘れられないっていうのか」  恭介は清香の顔を覗き込む。 「うん。まだ好き」 「何百年経っても?」 「そう、何百年経ってもまだ好き」 「どうして」 「私の初めての人はね、出会ったときは私より年下だった。お互い、一目惚れだった。とにかく大好きだった。彼がどんどん大人になっても、おじさんになっても、まだ好きだった。不思議に思うかもしれないけど、彼がおじいちゃんになっても、私はまだまだ彼が好きだった。その彼がね、死ぬ間際に言ったの。生まれ変わって、また会いに行くって」 「は……?」  生まれ変わりなど、その先の人生の無い人間の無責任な妄想だ。  三百年近く生きている私でさえ、生まれ変わりには一人も会ったことは無い。 「恭介……」  清香は、恭介の顔を見あげる。  恭介は、清香の手をグラスごと握ったままだ。  私は完全に蚊帳の外のようだったが、退出するタイミングを逃してしまっていた。 「馬鹿馬鹿しいって思うでしょ。でも百年、二百年と、生きてきた年月分降り積もってきた思いだから、私の中から消えてくれないの。似ている人に会うといつも考えちゃう。もしかしたら、あの人かもしれない。生まれ変わって、私に会いに来てくれたのかもしれないって」 「生まれ変わりかどうかをどうやって判断するんだ」 「さぁ……」 「分からないのか」 「今までの男達の中にいたかもしれないし、いなかったかもしれない。会えば分かると思っていたけど、何度愛し合ったって何も分からない」 「それでも待ち続けるのか」 「うん、ごめん……」 「そんなのまるで、呪いだ」 「うん。私もそう思うけど、その呪いがなかったら、私……多分、後追いしてたから……」 「後追い……」 「あの人の最後の一言で、私は今でも生きているのよ」  蛇の一族は、殺されても死なない。  病にはそもそも罹らない。  我らの死因は常に一つ、自殺だけだ。
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