184人が本棚に入れています
本棚に追加
「初めてって、いったい何百年前の話だよ」
「正確な数字に意味なんてある? どちらにしても、あなたが生まれる前の話よ」
「つまり、要約すると、叔母上は数百年間ずっと、その男の面影を求めて……?」
「そう、似ている男を次から次へと」
清香が自嘲気味に笑う。
「待ってくれ。その……初めての男がいまだに忘れられないっていうのか」
恭介は清香の顔を覗き込む。
「うん。まだ好き」
「何百年経っても?」
「そう、何百年経ってもまだ好き」
「どうして」
「私の初めての人はね、出会ったときは私より年下だった。お互い、一目惚れだった。とにかく大好きだった。彼がどんどん大人になっても、おじさんになっても、まだ好きだった。不思議に思うかもしれないけど、彼がおじいちゃんになっても、私はまだまだ彼が好きだった。その彼がね、死ぬ間際に言ったの。生まれ変わって、また会いに行くって」
「は……?」
生まれ変わりなど、その先の人生の無い人間の無責任な妄想だ。
三百年近く生きている私でさえ、生まれ変わりには一人も会ったことは無い。
「恭介……」
清香は、恭介の顔を見あげる。
恭介は、清香の手をグラスごと握ったままだ。
私は完全に蚊帳の外のようだったが、退出するタイミングを逃してしまっていた。
「馬鹿馬鹿しいって思うでしょ。でも百年、二百年と、生きてきた年月分降り積もってきた思いだから、私の中から消えてくれないの。似ている人に会うといつも考えちゃう。もしかしたら、あの人かもしれない。生まれ変わって、私に会いに来てくれたのかもしれないって」
「生まれ変わりかどうかをどうやって判断するんだ」
「さぁ……」
「分からないのか」
「今までの男達の中にいたかもしれないし、いなかったかもしれない。会えば分かると思っていたけど、何度愛し合ったって何も分からない」
「それでも待ち続けるのか」
「うん、ごめん……」
「そんなのまるで、呪いだ」
「うん。私もそう思うけど、その呪いがなかったら、私……多分、後追いしてたから……」
「後追い……」
「あの人の最後の一言で、私は今でも生きているのよ」
蛇の一族は、殺されても死なない。
病にはそもそも罹らない。
我らの死因は常に一つ、自殺だけだ。
最初のコメントを投稿しよう!