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28 消えない歯形
冬十郎の口付けは甘い。
わたしの口を開かせて、甘い舌が入ってくる。
「ん……」
冬十郎の舌はわたしの歯を上から下までなぞったり、上あごに円を描くように動いたりする。わたしの舌をからめて優しく吸ったりもする。
「んん……」
わたしはいつもふわふわと浮くような気分と、どろどろに溶けるような気分を同時に味わう。
なぜか体が熱くなって、どうしていいか分からなくなって、時々わたしは泣いてしまう。
わたしが泣くと、冬十郎はその涙を舐めて、こくんと飲み込む。
腰を抱き寄せて、体と体をぴったりとくっつけて、わたしを捕まえておくみたいに、冬十郎は強く抱きしめる。
「好きだ……」
耳元で低い声が囁く。
体中の力が抜けて、わたしは冬十郎に寄り掛かる。
「冬十郎様、大好き」
囁くように言葉を返す。
頬が熱い。
体が熱い。
口付けは、相手を好きだというしるしなのだと、冬十郎がそう教えてくれた。
だから毎日、冬十郎と口付けをしている。
でも……。
最近、少し、思う。
……これは、もしかしたら、いけないことなのかもしれない。
男女の違いについても、口付けについても、なぜキスされて涙が出るのかも、先生は教えてくれなかった。
先生が教えてくれなかったことについて、わたしは一切知る機会が無い。冬十郎以外には花野と七瀬くらいにしか会えないし、本もテレビもスマホも与えられていないから。
哀れでかわいそうな子のわたしを、冬十郎は宝物みたいに愛しんでくれるけれど……。
でも。
誰もこんな風にはわたしに触れなかった。
どの『親』も、クマオも、先生でさえも、キスしたり強く抱きしめたりしなかった。
冬十郎は、他の人がいる前では決してキスをしない。
だからやっぱり……。
わたしはちょっと息を吸って、冬十郎に質問してみた。
「これは……秘密ですか。人に言ってはいけないこと……?」
わたしは自分の唇に指で触れた。
冬十郎は、くすっと笑った。
「いや、隠す必要はない」
と、目を細めてわたしの頭を撫でた。
「私が姫を好きなことは、ここの誰もが知っている」
「そう、なのですか」
大きな両手がわたしの頬を包む。
「ああ、ただの独占欲だ」
「どくせんよく」
「姫のこんなかわいい表情を、誰にも見せたくない」
冬十郎は、ついばむ様にちゅっとキスをしてきた。
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