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29 白髪美人
首元の開いた服に着替えさせられて、冬十郎に抱かれてリビングへ入った。
まず目に入ったのは、白だった。
白い着物を着た、長い白髪の……男の人だと分かって、私はすぐに目をそらした。
冬十郎以外の男とは目を合わせてはいけない。
ソファに座るその人の背後に十数人の男女が控えている。
着物なのは白髪の人だけで、ほかの人は長い黒髪を一様に一つ縛りにして、昔の軍服のようなものを身に着けていた。ざっと見まわしただけで、全員が若く整った顔立ちなのが分かる。多すぎてリビングに入りきらないのか、螺旋階段の途中にも数人が立ってこちらを見下ろしている。
腰に剣を刺していたり、弓矢のようなものを持っていたり、とても物々しくて怖さを感じた。
ソファセットのこちら側には、黒スーツの女性が数人、男性は七瀬と2号しかいない。
冬十郎は白髪の人の向かい側のソファに私を降ろして、自分もその隣に座った。
私は男の人の顔を見ないように俯いていた。
着物の裾が近くに見えて、それが白いだけではなくて、金や銀の糸で細かく刺しゅうされているのが分かった。
「それか」
冬十郎に似た声が言った。
顔は見ないようにしているけど、距離的に白髪の人の声だろう。
「それ、とは」
冬十郎が硬い声で聞き返した。
「それが、そなたがさらって手籠めにした女か」
私達の後ろで一瞬ざわめく気配があった。
「何百年ぶりかに会う孫にかける言葉がそれですか」
冬十郎の声は静かだった。
「それよりも、そのような格好でぞろぞろと押しかけて来たのですか。よく騒ぎになりませんでしたね」
「堂々と歩いていれば、撮影か何かかと勝手に勘違いしてくれる。面白い時代になったものだ」
「人間の街はめまぐるしい速さで変わっていきます。おじい様は里でのんびりされていた方がよろしいのでは」
「そなたが正体の分からぬ毒婦に魅入られ、のぼせあがっていると聞いたものでな」
明らかな敵意を感じて、私は身をすくめた。
冬十郎の周りの誰もが、一目で私を嫌う。
清香という叔母も、あの大男も、みんな冬十郎に警告した。
それは化け物だ、近寄るなと。
冬十郎は私の髪をかき上げ、周囲に見せるように私の首をチュッと吸った。
「この者は、私の伴侶です」
「ほぉ……」
小さく笑うような声が聞こえた。
「伴侶と来たか。あからさまに執着の跡を残しおって……。成熟しきらない少女を好むとは知らなんだ」
「何とでも」
空気がピリピリする。
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