29 白髪美人

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「愚かな……。愚かすぎるぞ、ふゆ」 「私が自ら望んだことです」 「やれやれ、かわいい孫に矢を打ちかけねばならぬとは。放て」  白髪の男は軽口を言うように命じた。  風を切る音が幾重にも重なり、ぐらりと冬十郎の体が傾いだ。 「いやぁ!」  倒れた冬十郎の胸に数十本の矢が突き出していた。 「冬十郎様ぁ!」  縋りつこうとした私の腕をつかんで、白髪の男が無理矢理引き剥がした。 「離して、離してぇ!」  炎の幻覚をぶつけたが、一瞬で消されてしまう。 「冬十郎様!」 「騒ぐな。お前の目の前で冬十郎の首を落とそうか。死にはせぬが、首はつらいぞ。完全につながるまで数日苦しむ」  ヒューッと喉がひくつく。  がくがくと震える体を、白髪の男が乱暴に引っ張る。 「あっ」  転んで膝を打ったが、男は頓着せずにまた引っ張り上げた。 「ふゆ、この女は里へは連れて行かぬ。そなたの知らぬ場所で、そなたの熱が冷めるまで、私が飼ってやろう」  冬十郎は声も出せないようだった。  震える指が私の方へ延ばされる。 「そんな目をしなくともよい。無体な真似はせぬよ。さらわれ姫が欲情して男を求めるなら、何人でも当てがってやるとも……」  冬十郎によく似た顔が、冷たく笑う。 「目隠しを」  白髪の男の命令で、軍服が一人近づく。 「いやぁ、離して!」 「うるさいから口も塞ぐように」  私は目隠しと猿轡をされて、引きずられるようにそこから連れ去られた。  今までのどの『親』よりも、あのキンパツよりも、乱暴なさらい方だった。
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