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「愚かな……。愚かすぎるぞ、ふゆ」
「私が自ら望んだことです」
「やれやれ、かわいい孫に矢を打ちかけねばならぬとは。放て」
白髪の男は軽口を言うように命じた。
風を切る音が幾重にも重なり、ぐらりと冬十郎の体が傾いだ。
「いやぁ!」
倒れた冬十郎の胸に数十本の矢が突き出していた。
「冬十郎様ぁ!」
縋りつこうとした私の腕をつかんで、白髪の男が無理矢理引き剥がした。
「離して、離してぇ!」
炎の幻覚をぶつけたが、一瞬で消されてしまう。
「冬十郎様!」
「騒ぐな。お前の目の前で冬十郎の首を落とそうか。死にはせぬが、首はつらいぞ。完全につながるまで数日苦しむ」
ヒューッと喉がひくつく。
がくがくと震える体を、白髪の男が乱暴に引っ張る。
「あっ」
転んで膝を打ったが、男は頓着せずにまた引っ張り上げた。
「ふゆ、この女は里へは連れて行かぬ。そなたの知らぬ場所で、そなたの熱が冷めるまで、私が飼ってやろう」
冬十郎は声も出せないようだった。
震える指が私の方へ延ばされる。
「そんな目をしなくともよい。無体な真似はせぬよ。さらわれ姫が欲情して男を求めるなら、何人でも当てがってやるとも……」
冬十郎によく似た顔が、冷たく笑う。
「目隠しを」
白髪の男の命令で、軍服が一人近づく。
「いやぁ、離して!」
「うるさいから口も塞ぐように」
私は目隠しと猿轡をされて、引きずられるようにそこから連れ去られた。
今までのどの『親』よりも、あのキンパツよりも、乱暴なさらい方だった。
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