30 化け物

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30 化け物

 獣のように首輪でつながれていた。  部屋は6畳ほどで、パイプベッドのほかに何も置かれていなかった。  首輪についている鎖は、パイプベッドの足につながれ南京錠がかけられている。思いのほか長さがあり、部屋の中を動きまわることはできた。  奥にトイレとバスルームと小さなキッチンがある。トイレにはペーパーが、バスルームには石鹸やタオル類があったが、キッチンには調理器具も食料も何も置いてなかった。  冬十郎から引き離されてむりやり車に乗せられた後、何かを飲まされた。  気付いたらここにいたので、何時間経ったのかは分からない。  薄暗いが、夕暮れなのか夜明け前なのか時計も無いので判断できなかった。 小さな窓があったので、開けてみた。  隣のビルの壁しか見えなかった。  鎖の長さいっぱいまで動いてみたが、あと一歩玄関のドアまで辿り着けない。わざわざギリギリの長さにしたのだろう。首輪は硬い革製のもので、動くたびに擦れて痛い。きっとひどい傷跡が残るだろう。  コップが無かったので蛇口から直接水を飲み、少し寒かったのでベッドで薄い毛布にくるまった。  わたしは、閉じ込められることにも、つながれることにも、食事をもらえないことにも慣れている。  でも、冬十郎が大事に大事にしてくれたわたしの体が傷つけられるのは、なんだか少し悲しかった。あの時、足首に残ったごく薄いロープの跡にさえ、優しい冬十郎は心を痛めていたのに……。  白髪の男は無駄なことをしていると思う。  わたしを鎖でつないだり飢えさせたりしても、何の意味もない。  どんなに遠く引き離されても、冬十郎はわたしを忘れない。  どんなに時間がたったとしても、冬十郎はわたしを諦めない。  どんなにうまく隠したとしても、冬十郎は必ずわたしを見つけ出す。  その時にまだわたしが生きていれば、今まで以上に冬十郎が優しくなるだけ。  もしもわたしが死んでいれば……。 「ふふ……」  そこまで考えて、思わず笑みがこぼれてしまった。
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