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……もしもわたしが死んでいたなら、その場で冬十郎が果てるだけ……。
冷たくなったわたしの体を抱きしめて、冬十郎は、いっぱい、いっぱい泣いてくれる。
そしてきっと、隣に静かに横たわる。
最期に、あのきれいな唇で何を言うのか……。
きっと、わたしの名前を呼ぶだろう。
頭のてっぺんから足のつま先まで美しいあの人が、冷たいわたしの指を握って、ゆっくりと目を閉じる。
そして、苦しむことなく、眠る様に逝くのだ。
死んだわたしの魂を追い求めて。
「……ふぅ……」
甘い吐息が漏れた。
こんな状況なのに、おかしくなったみたいに心が満たされている。
冬十郎を思うと胸が熱くて、うっとりと頬が緩んでしまう。
「冬十郎……」
誰も彼もがわたしを化け物と呼ぶ理由が、こうなってやっと分かった。
わたしは、あの時、喜んだから。
命を捧げると言われて、わたしの胸はきゅんと高鳴った。
わたしが死んだら冬十郎も死ぬのだと分かって、震えるほどに嬉しかった。
永遠に続くはずだった冬十郎の命に、わたしの存在が期限をつけた。
それを後悔して悲しむのが普通の『人』だというのなら、喜んでしまったわたしはやはり『化け物』だということなんだろう。
認める。
わたしは化け物だ。
狂おしいほどに思う。
冬十郎はわたしのもの。
長い指先も、柔らかな唇も、艶やかな黒髪の一本一本まですべて、あの甘い冬十郎の匂いも味も、その命までも全部がわたしのものだと。
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