31 見えない鎖

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「あ、は、早送りしてすべて見ましたが、あの子……姫様には、あれから一度も食事を与えていないようです。それで、映像の最後には男がジュースに何か混入する様子と、それを飲んで昏倒した姫様を二人の男が連れ去る様子が映っていました」 「行き先は」 「近辺の防犯カメラを調べさせていますが、まだ」 「鬼童に連絡を」 「え、鬼童様ですか?」 「私は長らく平和ボケしていたようだ……。里の者に矢を射かけられることなど、欠片も考えていなかったのだからな。こうなったら、里との全面戦争も辞さない。鬼童を通じて揃えられるだけの銃火器を揃える」 「そ、そんな、ご当代様!」 「早まってはいけません。深雪様の行動はふゆ様を思ってのこと」  七瀬が私の腕をつかんだ。  私は床から首輪を拾って、七瀬の顔の前に突き付けた。 「私の半身にこのような仕打ちをしておいて、私を思ってだと?! あやつの心臓を抉り出してもまだ収まらぬわ!」  怒り心頭でぶるぶると体がわななく。  預かるという言葉通り、姫を丁重に扱っていればまだ許してやったものを。  だが七瀬の手は、縋る様に離れない。 「ですが、ですが、雪弥様を奪われ、またふゆ様まで『さらわれ姫』に奪われようとしているのです。深雪様の心中はいかばかりかと……!」  七瀬の手を振り払おうとして、数百年ぶりに聞く名前に私は動きを止めた。 「ゆきや……?」 「はい、雪弥様です」  七瀬は顔を歪ませて、絞り出すように言った。 「ふゆ様の、お父上です……!」 「父上が……さらわれ姫に奪われた……?」  まったく聞いたことのない話だった。  父は私が幼い頃に死んでいる。父と触れ合った記憶はほとんどなく、母もまだ子供だった私を置いて里を出て行った。母も一族の者なのでまだどこかで生きているかもしれないが、連絡も来ないし、探したことも無い。  私は七瀬をはじめ、里の者達に囲まれて育ったため、父母がいなくてもまったく不自由を感じたことは無かった。  そもそも、蛇の死因は自殺しかない。一族の誰が自殺しても、その原因を深くは追求しないことが里の不文律だ。誰も父の死について詳しくは教えてくれなかったが、当時はそれを疑問には思わなかった。私がまだ子供だったため、余計に誰もが口をつぐんだのだと思っていた。
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