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「ねぇ、明日どうする?」
つきあい始めてから今まで、幾度となく聞いたことのある彼女の質問に、ぼくはあらかじめ決めていた言葉を口にする。
「プラネタリウムを見に行こう」
そう言うと彼女は少し驚いた顔をした。
ぼくが「どうしたの?」と尋ねると彼女は少し考えるように、んー、と言ってからまっすぐにこちらを見て言う。
「……だって、いつもなら『好きなところでいいよ』とか『どうしようか』とか言ってけっきょく家でだらだら過ごしちゃうから、明日もそうなのかなって」
「そのほうがいい?」
ぼくがそう尋ねると彼女は首を振った。
「世界の終わりにいつも通り過ごすのもいいけど、きみが行きたい場所があるならそこに行くべきだよ。だって、あさってはもう、どこにも行けないんだから」
彼女は少しうつむいて、そう言った。けれどすぐに顔を上げて口を開く。
「でも、プラネタリウムなんてどこでやってるの? それに、見たい映画があるって前に言ってたよね。そっちはいいの? あ、せっかくだからどっちも行っちゃう?」
その言葉に、ぼくは笑いながら「ヨクバリだなぁ」と言うと、彼女は自信満々の顔で「冥土の土産に思い出だけでもたくさんほしいもの」と答えた。
「残念だけどそれはできない。近くの映画館は臨時休業中なんだよ。アルバイトの店員さんが皆『したいことがあるので休みます』って言ったんだって。そこでバイトしてる友達が教えてくれたんだ」
「あー、まぁそうなるトコもあるよねぇ。でもその調子じゃ、プラネタリウムもダメなんじゃない?」
大丈夫だよ、とぼくは首を振る。それから手元にあるスマホの画面を彼女に見せた。そこにはつい先ほどSNSに書き込まれたばかりの文字列が映し出されている。
『ゆずはなホールは終末でも貴方に星空を届けます!』
それは近所の多目的ホールの公式アカウント…ではなく、そのホールで働いているプラネタリウム好きの老人が数分前に作った個人のアカウントだった。書き込みはそのひとつだけ。この人は最後の一日に、プラネタリウムの装置を動かし続けることを選んだのだと、その書き込みを見れば理解できる。きっと、ホールのオーナーに頼んで、許可をもらったのだろう。
彼女はそれを見て頷いた。
「……素敵ね。わかった、明日はここに行きましょう」
ぼくらは終末を心地よく過ごすために、いつもより早く床についた。
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