せめて完璧な終末を

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 窓から差し込む光で目が覚める。カーテンを開けると薄曇りの空が見えた。 「……今日で終わりなんだから、もっと晴れてくれてもいいのに」  目をこすりながら彼女も目覚める。 「無茶言うね」 「まぁ、雨じゃないだけ合格かな」 「だれに合格あげてるの?」 「んー? カミサマとかじゃない?」  彼女はそこでいったんあくびをして、それから「おはよう」と言った。それにぼくも「おはよう」と返す。  いつもと変わらない朝だった。  朝食は彼女が食べたいとリクエストしたフレンチトーストとカリカリのベーコンと目玉焼き、ついでにタマネギ多めの野菜スープ。  彼女はブラックコーヒー。  ぼくはコーヒーが苦手だからその代わりにストレートの紅茶。  それ以外は全く同じメニューを二人分作って食卓に並べる。 「焼くの、上手くなったね」  彼女はコーヒーと紅茶の入ったカップをそれぞれ置きながら、フレンチトーストを見て言う。 「……さんざん特訓しましたので」 「初めて作ったときは丸焦げだったもんね」  彼女がちいさく笑いながら椅子に座る。  ぼくは頬を指でかきながらその向かいの席に座る。 「きみが我慢して食べてるのを見て、いたたまれなくなったんだよ」 「それで特訓? 私に内緒で?」 「そう」 「そっか。ありがとね」  でも、と彼女は続ける。 「きみがつくってくれたあの丸焦げフレンチトースト、もう一回ぐらい食べたかったかも」  片手でほおづえをついてそう言った。 「……おいしくないと思うけど?」 「おいしくなくても、嬉しかったし、やっぱりいい思い出だからさ」  ぼくはハッとしてきれいに焼き色の入ったフレンチトーストを見る。 「作り直す? 丸焦げに」  そう言うと彼女は口を押さえて笑う。 「あっはは、いいよ、きみが特訓してくれてたこともすっごく嬉しいから!」  彼女はナイフとフォークを使って切り出したフレンチトーストを口に運び、それから目を輝かせた。 「おっいしい。今まで食べた中で一番おいしいよ、これ」 「大げさだなぁ」と、ぼくは笑った。 「んむ、勘違いしてるなぁ」  二つ目のフレンチトーストの欠片を口に運びながら彼女が言う。 「なにが?」  紅茶のカップに手を伸ばしながら尋ねる。  彼女はその間にもぐもぐとフレンチトーストを噛んで飲み下して、言う。 「今まで食べてきた食べ物の中で、一番おいしいって言ってるの」 「……大げさだな」  まっすぐにこちらを見るその瞳に耐えきれずに、ぼくは紅茶のカップを持ってそれを口に運んだ。彼女のやさしげな笑い声が追い打ちして、顔が熱くなるのがわかる。  それを熱い紅茶のせいにしようと、口内を紅茶でいっぱいにした。熱い。すごく熱い。 「きみだって、大げさだよ。そんなに照れなくてもいいじゃない」 「照れてません」 「あ、敬語禁止。ていうか、さっきも敬語使ってたでしょ。二ポイント追加ね」 「それ、いつまで続けるんで……続ける、ん……続けるの?」 「……今のアウトじゃない?」 「今のはセーフです。……あっ」  彼女は、一ポイント追加、と言いながら野菜スープをすくって食べた。  いつまでたっても、かなわない。  そう思いながらぼくもフレンチトーストを切り出して食べる。たしかに彼女の言うとおり、初めて作ったときとは比べものにならないほどおいしくできている。 「次は、初めて作ったときと同じように焼くから」  次なんて無いのはこの世界に住む人々全員がよくわかっている。  でも、彼女はいつもとかわらない笑顔で「覚悟しとくよ」と言った。
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