せめて完璧な終末を

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 どうせ終わってしまうのだから、洗濯も掃除も洗い物もしなくていいと思うのだけれど、彼女は「日課だから済ませてから行こう」と言って洗濯機のふたを開けた。  仕方なくぼくも洗い物をして、それから部屋の掃除をした。  午前十時、身支度を調えて部屋を出る。  車は持っていないし、電車やバスはところどころ運休しているのであまり信用できない。  だから自転車でゆずはなホールまで行くことにした。 「自転車乗るのひさびさだよ」 「乗り方、覚えてる?」 「覚えてるに決まってるでしょ、私、大学四年間ずっと自転車通学だったんだけど」  彼女はむくれたふりをして自転車にまたがるとそのまま道路に出てしまう。  破砕音。  視界が、暗転する。 ・ ・ ・ 「自転車に乗るのひさびさだよ」 「でも、大学四年間は自転車通学だったんでしょ?」 「そうなの。……あれ、それきみに言ったっけ」  アパートの入り口を自動車が横切る。ぼくはそれを見てほんの少し息を吐いた。 「うん、前に聞いた。それに、何回か見かけたこともあるし……」  そう言うと彼女はにんまりと笑った。  それはぼくをからかうときのおきまりの顔だった。 「ふーん。ねぇ、いつから私のこと知ってたの? ちゃんと会ったのって、きみが二年生のときでしょ?」 「……二年で、初めて会ったときだけど?」 「あ、今ごまかしたでしょ。いいじゃん教えてくれたって。今日が最後の機会だよ?」  それを言われると弱い、が、そう言った彼女も「最後」を理由にするのは卑怯だと思ったのか「きみの気が向いたらでいいから」と自転車にまたがる。 「けっこう車多いから、気をつけて」 「はいはい。右よーし、左よーし、では出発!」  道中はとくになにもなく、ふたりで景色を楽しみながら無事にゆずはなホールにたどり着いた。自転車を駐輪場に置いて、入り口に向かう。  ホール内、受付のカウンターにも休憩所のソファにも売店にも人はいない。ちょうどプラネタリウムが映し出されているらしく、ホールの入り口には「上映中 次は十一時半から」という手書きの立て看板が置かれていた。 「どうする?」  彼女が言う。 「この辺見てまわって、始まる前に戻ってくれば良いんじゃないかな」 「あ、じゃあ、さっき通った雑貨屋さん見てもいい?」 「うん。いいよ、行こう」  ぼくらは再び自転車にまたがって、彼女の言う雑貨屋に向かった。
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