せめて完璧な終末を

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 世界は終わる。  ぼくはヒーローじゃない。  だから、世界を救うことなんかできない。  ぼくは、最後の一日をひたすら繰り返すだけ。  ぼくにはそれしかできない。  昨日の夜。彼女が「ねぇ、明日どうする?」とぼくに尋ねるその瞬間。  そこまでしか、さかのぼれないのだ。  けれど、エンドロールは流れない。  カーテンコールは始まらない。  終末は来ても、終了は来ない。  神様がぼくの力を奪ったり、ぼくが彼女も世界も嫌いになってしまったり、そういうことが無いかぎり、ぼくはこの一日を永遠に繰り返す。  だから、終末は終わらない。  なぜならこの世界に神様はいないし、ぼくは彼女を嫌いになれないからだ。  でもそれは、彼女には秘密。  永遠に伝えることのできない隠し事。  できるだけ幸せな最後の一日を彼女に送るために。  完璧なハッピーエンドを迎えるために、ぼくは終末を繰り返す。 ・ ・ ・ ・ ・ 「ねぇ、明日どうする?」  聞き慣れた彼女の声がする。  ぼくは目を開けた。  あなたとなら、どこへでも。そう思っても口には出さない。  そう言うときみは照れて、明日の話ができなくなってしまうから。  ぼくはその声に、あらかじめ決めていた言葉を口にする。 「映画を見に行こう。隣町の映画館、午後は上映するらしいから」  彼女はいつものように、少し驚いた顔をした。
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