内気な自分に彼女が教えてくれたこと。

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【代償と奇跡】  (二人きりにしてほしいって言ってたけど、どういうことだ?)  ゆめに言われるがまま病室を出てしばらく廊下で待っていた清剛だったが、何をしているのか気になり閉じられたドアを少しだけ開けて中の様子をうかがう。隙間からなのであまりよく見えないものの、ゆめの姿は確認できる。  すると、  (なんだ?何をしてる……)  見るとゆめの身体が光を帯びている。  言い知れぬ不安を感じた清剛は慌ててドアを開け叫ぶ。  「おい何して――!!」  「あ……見られてしまいましたね……」  そこには光を帯びたゆめが椅子に座って美空の手を握っていた。  「何をする気だ!」  清剛が強い口調で問うとゆめは儚げな顔で答える。  「……私の(いのち)を、全て美空さんに転送します。これで美空さんは必ず助かります」  「ちょっと待て、(いのち)を転送って……そんなことしたら君はどうなるんだ!」  「…………存在そのものが消えてしまうでしょう……」  慌てた面で清剛が訊ねるとゆめは俯いてそう答える。  「なっ……!」  その言葉に清剛は唖然としてしまう。  「そんなのダメに決まってるだろ!他のやり方を考えろ! 俺も一緒に考えるから!」  必死にゆめに訴えかける清剛。その様子はまるで以前観た映画のラストシーンを彷彿(ほうふつ)とさせる。  だがゆめは首を横に振って言う。  「いいえ、もうこれしか美空さんを救える方法がないんです。わかってくださいっ」  「そんな……俺はイヤだぞ!君が居なくなったら俺はまた……」  弱音を吐く清剛にゆめは少し間を置いてから穏やかな口調で言った。その()にはうっすら涙が浮かんでいる。  「……イヤですよね。私もご主人様とお別れしたくないですしその気持ちは痛いほど解ります。でもご主人様にとって美空さんは居なくなっては困る方なんですよね?」  その言葉に清剛はハッとした。  更にゆめは続ける、  「その気持ちが本当なら、後悔しないで欲しいんです。それとご主人様は自分で思うほど弱い方ではありません。 自信を持ってください」  「…………」  清剛は押し黙りどう返したらいいか判らない様子。そんな様子の清剛にゆめは優しく告げる。  「さぁ、後はご主人様の気持ち次第です。ご主人様の本当の気持ちを私に聞かせてください」  「俺は……俺の気持ちは……」  決定権は清剛自身にある。「頼む」と言えば確実に美空は助かるだろう。しかし同時にその決断は目の前でゆめを失うことになる。  口は悪いが本当は兄のことを好いている肉親の妹か、自分を勇気づけ今日まで献身的に尽くしてくれたひとりの女の子か。どっちを取るか、どうしたいか。清剛は悩んでいた。ただ一つ言えることはここで断れば美空の命は間違いなく消えるということ。  その心の葛藤の末、清剛の下した決断は……。  「……頼む、美空を、俺の妹を助けてくれ!お願いだ!」  その言葉を清剛から受け取るとゆめは一度ホッとした様子見せ笑顔で答える。  「ありがとうございます。ご主人様ならそう言ってもらえると思ってました」  そしてフッと微笑(ほほえ)んだ後瞳()を閉じ、ゆめは意識を集中させる。  「では始めます!」  すると先程よりも光の度合いは眩いものに変わり、病室全体を包む。  「っ!!」  眩い光の中清剛は神秘的な光のオーラに包まれたゆめを目にする。  レモン色の光の粒が美空の身体に流れ込んでいく。同時にゆめの姿(シルエット)が徐々に薄くなっていく。  ゆめは涙を必死に堪え笑顔をつくっているがそれでも両方の瞳からは涙が頬をつたいポロポロと流れ落ちている。  「今日まで……ありがとうございました!短い間でしたけど、ご主人様と過ごした時間は決して忘れません!……さようなら……」  「あ! 待ってくれ!」  心残りをしまいと清剛はハッとし気持ちを伝える。  「ありがとうゆめ、会えてよかった……」  「ようやく名前で呼んでくれましたね。私も会えてよかったです……貴方に幸福が訪れることを願っています…………」  ゆめは想いをそう告げると儚い粉雪のようにフッと清剛の前から消えてしまった。  病室にポツリと独り残される清剛。虚しさと喪失感で心がきつく締め付けられる。  「ぐっ………………くっ!」  これしか方法がなかったとはいえ失ったものの代償はあまりに大きかった。清剛は手元に残ったゆめの容姿のフィギュアを握りしめただただむせび泣くことしかできなかった。  ――翌日、  「ん……朝か」 清剛は目をこすり目を覚ました。カーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。  格好悪いがほほ一晩中泣いていたのでほとんど眠れていない。  手にはゆめの容姿のフィギア、昨日のことは夢ではなかったのだ。  「ハァ……悪い夢だったらよかったのにな……」  清剛は嘆息してからふと美空の方を見てゆめの言っていたことを思い出す。  「そういえば必ず助かるって言っていたけど本当なのか」  半信半疑な気持ちで美空の名前を一度呼んでみる清剛。 「お〜い美空聞こえるなら返事しろ〜」  「………………」  だが反応はない。  「……おい美空!さっさと起きろボケぇ!」  「………………」  どうせ反応はないだろうと思いながら清剛は今度は少し強い口調で呼ぶがやはり反応はない……。  ため息をついて目線を美空から外そうとした、そのときだった。  「…………う、うる……さ、い……」  「!?」  小声ではあるが美空が口を開いた。  そしてゆっくりと目を覚ます。  「おい!わかるか?兄ちゃんだ!」  嬉しさのあまり清剛が顔を近づけると、美空は驚いた後よくわからないと言いた顔をする。  「わ!ちょ、お兄い!?いきなり顔近づけないでよ。 て……あれ?何でアタシ病院なんかに……?」  どうやら自分が意識不明だったことは覚えていないようだ。  その後ナースコールで来た医師とナースは美空の様子を見るなり「ありえない……」と言った顔で驚いていた。  それを見ながら清剛は内心ゆめに感謝するがなんとも言えない気持ちにもなっていた。    「――そう、日和には心配かけちゃったわね」  「ずっと付きっきりだったみたいだぞ? 退院したらお礼ぐらいしてやれよ?」  「わかってるわよ」  「それと一応俺にもな…」  「はいはい……いつかね」  「おいなんだその心のこもってない言い方は、人の気持ちも知らないで……たくっ」  「どうだか……うるさい妹がいなくて生成してたんじゃないの?」  「……そんなことないって、それより一応病人なんだから大人しくしてろ」  「一応って、どういうことよ!」  清剛は美空と他愛もない話をしていた。  美空は相変わらず可愛げのない話方だが、清剛にとってはとても久々なことで嫌な気はしなかった。  すると美空はゆめがいないことに気がつく、  「あれ?ねえ、あの子はどうしたのよ。一緒じゃないの?いつも一緒だったじゃない」  「え?さぁ……」  突然の問いかけに清剛は一瞬ドキッとしてしまう。  当然美空は自分がゆめの犠牲によって生還したことなど全く知らない。  「さぁ……じゃないでしょ。今日は一緒じゃないのって」  「あ、ああ……今日は家で留守番してもらっててだな……あはは」  「ふ~ん、まあいいや」  こんな被災した中で家で留守番をしてもらっているなどド下手な言い訳だが事実を伝える訳にもいかずとっさに嘘をつくしかない清剛であった。  ――その夜、  「あの時は悪かったな、少し言い過ぎた」  「うん。アタシもごめん」  清剛と美空はお互い前喧嘩してしまったことを謝っていた。  「ん?何だ?やけに素直だな、明日は嵐だな」  「ちょっと!それどういう意味よ!イタタ……」  「ほら怒らない、怒らない」  「む~退院したら覚えてなさいよ……うぐっ」  その美空の言葉に「ようやくいつもの調子に戻ったな」と少しほっとする清剛。  すると、  「……ねえ、奇跡って信じる?」  突然美空がどことなく深刻そうな顔で訊ねてきた。  「なんだよ急に」  もしやゆめがいなくなった理由を感づかれているのではと焦る清剛。  「アタシが助かったのって本当に奇跡だったのかなって……担当の先生からそう言われたから」  その美空の言葉に清剛は一瞬息を飲んだ。額から冷や汗が流れ落ちる。  (まさかこいつ気づいているのか?ならいっそのこと話すしか……)  そう一度は思った清剛だったが、話した後に美空が激昂(げっこう)する姿が頭に浮かび話すのを躊躇(ためら)った。怒鳴られるならまだいいがで事実を話してしまったら美空は間違いなく大きなショックを受ける。そう思うと事実を話すことはできなかった。  「もう遅いから寝ろ!」  「……わかったわよ。お休み…………」  美空が眠りに着いたのを確かめると清剛は独り項垂(うなだ)れて大きくため息を吐くのだった。                                                              
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