内気な自分に彼女が教えてくれたこと。

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【衝撃】    一月五日、カフェでの出来事から三日が経ち、お正月休みも最終日となるこの日。  清剛はゆめと炬燵に包まりながら何をすることもなくボ~と過ごしていた。  「明日からまた仕事(バイト)始めか……なんだか憂鬱(ゆううつ)だな……」  「そうですよね。わかりますよその気持ち」  「そうそう、なんだかやる気出ないんだよなぁ……それにしても、大した番組やってないな……」  テレビは迎春を祝うCMばかりそれもどのチャンネルも「今年も宜しくお願い申し上げます」という企業宣伝のもので見ていて飽きてしまう。  「そう言えばもうすぐお昼だけど何か食べたいものでもあるか?」 「う~ん特にはないですが……強いて言えば暖かいものがいいです」 「暖かいものね……ならコンビニにおでんでも買いにいくか?」 「はい。それでは支度をーー」 清剛の訊ねたことに頷いてゆめが立ち上がろとした時だった。 《緊急地震速報です! 強い揺れに警戒してください!》  突然強い地震が来ることを報せるアナウンスが流れ、同時に危機感を(あお)るアラームが鳴りだす。  お正月の和やかな雰囲気は突如(とつじょ)緊迫したものへと変わる。  そしてゆっくりと揺れ始めたかと思った次の瞬間……下から突き上げるような尋常ではない揺れが襲ってきた。  「ふえ――ご主人様あ――!!」  「ぐあ!」  ゆめは極度の混乱から泣きだし、清剛も歯を食いしばって揺れが収まるのをただ待つしかできない。  ――数分後、  二波目の揺れが収まってから清剛が炬燵から這い出ると、棚や植木鉢倒れ、先程まで点いていたテレビは消えていた。  (こりゃぁ……酷いな……)  清剛が呆然としていると少し遅れてゆめが炬燵から恐る恐る顔を出した。  「大丈夫か?」  「はい、なんとか……」  心配する清剛にゆめはコクリと頷く。  折角のお正月気分ももう台無しである。  「これからどうしましょう……」  「……とりあえず俺はいろいろ見てくるからそこに居てくれ。いいな?」  途方に暮れているゆめに清剛は一言告げると一人リビングを出て行った。    家の中を見て回っていると清剛は小さなラジオをみつけ電源を入れる、幸いラジオは壊れてはいなかったが聞こえてきた内容に精剛の顔は青ざめた。  「おいおい冗談だろ!?」  ラジオから聞こえてきたのは観測された地震の最大震度が七であるという目を疑うような情報だった。  「……こうなったからには仕方ない、美空(あいつ)にも連絡しないとなぁ……少し面倒くさいが……」(喧嘩中だから話したくないとかいうなよ)  文句を言いながら清剛は美空に連絡しようとスマホを手に取り電話を掛ける。  喧嘩してしまったとはいえ心配だからだ。  だが災害時の混乱からか、なかなか繋がらない。  「くそ、どうなってんだ」(おいおい、意地でも出ないつもりかよ) 「仕方ないまたかけ直すか」  安否が確認できないことは気になるものの一度電話を切り精剛はラジオを持ちリビングへと向かった。  ――リビングに戻ってきてから家の状況と美空の安否がつかないことを清剛はゆめに話した。 「部屋の中を見渡してきたが壁にヒビが入ってる以外は大丈夫そうだ。ただ美空との連絡がつかない」  それを聞いたゆめは大きく動揺する。  「え! 連絡がつかないってまさかそんな。だ、大丈夫なんでしょうか」  「わからないが多分避難中なんだろうもう一度連絡はとってみるつもりだ」 清剛はゆめに言うと災害情報が流れるラジオを聞きながら美空に電話を掛け続けた。 しかし、この日バッテリーがなくなるまで掛け続けても美空と電話が繋がるこはなかった。  被災から三日後、  《――一昨日(おととい)発生しました地震について被害は函館を中心にに広範囲に渡り発生しており、家屋の倒壊も数百棟に及んでいます。なお、政府は自衛隊による災害派遣を決定しました……》  「大変なことになりましたね……」  「まぁこれだけの災害だからな」  相次ぐ余震もあって疲れが抜けきらない顔で非常食を口にする清剛。  「ところで美空さんとは連絡とれましたか?」  「いや……相変わらず繋がらないままだ……」  清剛は少し不安下な顔をしてから首を横に振る。  三日経っても電話はおろかメールすらこないのでは心配にもなる。  「まさかこんな状況でも根にもってんのかアイツ……」  「それはないと思いますが……」  すると突然スマホから電話の着信音が鳴った。  (ようやく話す気になったかあのバカ)  清剛は少し苛立った声で電話に出る。  「おい! なんで電話でないんだよ! 少しはこっちのことも気に――」  だがその電話は美空(いもうと)からではなく函館中央病院からだった。  《落ち着いてください。夢灯美空さんのお兄様で間違いないでしょうか》  そう言われた瞬間、清剛の中で嫌な予感が(よぎ)った。  「……あ、あの、美空(いもうと)になにかあったんですか?」  清剛が恐る恐る訊ねると、病院側は美空が震災当日から行方不明だったことを伝えたうえで、今朝ようやく見つかったものの発見までに時間がかかったが為に現在も意識不明だと告げる。  「な、そんな……」  信じがたいことを告げられ清剛は頭の中が真っ白になった。  そして脱力したような声で「わかりました」と言ってから電話を切ると、ため息を吐いてうなだれる。  「あ、ご主人様大丈夫ですか?」  ゆめが心配そうに訊ねると、  「今病院から電話があって美空が意識不明だって……」  清剛は(うつむ)いたままそう答える。 「え……!?」  ゆめは愕然(がくぜん)とし固まる。  「とにかく病院に行かないといけない、一緒に来てくれるか?」  「も、勿論です!」  それから清剛とゆめは足早に仕度を整えると病院へと急いだ――  函館中央病院、  「ハァハァ……美空は、妹はどこですか!?」  自転車をかっ飛ばし病院に着くなり受付のもとに駆け寄る清剛。  気が動転していて自分の名前さえまともに答えられない。  受付は清剛に落ち着くように言ってから美空が〔ⅠCU〕で処置を受けた後病室に運ばれたことを話した。  そして病室の番号を清剛へ伝える。  「ありがとうございます!」  清剛は受付に頭を下げるとゆめと共に病室へと急いだ。もう喧嘩したなどどうでもよくなっている。  エレベーターが階に着く間清剛の心は揺れていた。  〔ⅠCU〕に運ばれたということはまず軽い怪我ではないということ、それは医療知識がない清剛であっても知っているからだ。  エレベーターが階に着くと清剛はゆめと受付に教えてもらった病室を探す。  待合室のソファーも震災で負傷した患者でいっぱいである。  「ん? ここか」  病室を見つけ、ゆめと中に入るとそこには頭部に包帯を巻かれ、人工呼吸器を付けられ赤いトリアージカードが付けられた美空の姿があった。  横では心電図の波形が儚くリズムを刻んでいる。  「そんな……」  ゆめは痛々しい姿の美空を前にして呆然と立ち尽くし、清剛はベッドに駆け寄り声をかける。  「美空わかるか!? おい!」  だが美空は瞳を閉じたまままるで糸が切れた人形のように全く反応を示さない。  すると病室に白衣を着た医師が入ってきた。 「お待たせしました……」  「美空(いもうと)はどうなるんですか!? 助かるんですよね!?」  清剛は医師に駆け寄り訊ねるものの医師は険しい顔で美空の状態について説明する。  それによると三日もの間倒壊した建物の下敷きになっていたこと、救出されたときにはすでに意識がなかったこと、そして長時間意識不明だったこともあって今後目を覚ますかどうかは全くわからないというものだった。  「そんな! なんとかならないんですか!!」  (すが)る思いで清剛は懇願(こんがん)するものの医師は顔色を変えず「最善は尽くします」とだけ言って病室から出て行った。  「くそ……っ」  自分の力ではどうにも出来ないことに苛立ちと無力さを感じる清剛。  その姿にかける言葉が見つからないのか、ゆめは黙って見ていることしかできない。  すると出て行った医師と入れ替わるかたちで短い髪のボーイッシュな見た目の女性が病室に駆け込んできた。  必死に走ってきたからなのだろう。かなり息が上がっている。  女性は美空に駆け寄り必死に声をかける。  どうやら友人のようである。  「あの……誰ですか?」  清剛が訊ねると女性は振り向き焦るように自己紹介をする。  「あ、もしや美空のお兄さんですか? ウチ、柳瀬日和(やなせひより)っていいます。美空とは大学の同期で!」  日和はそう答えてからそのまま深く頭を下げて清剛に謝罪する。  「すみません! ウチがもっとしっかり引き止めていれば……こんなことには……」  ギュッと閉じた()にはうっすら涙が浮いている。  「……とりあえず顔上げてくれ。何があったのか教えてほしい」  清剛が訊ねる。 すると日和は俯いたまま地震当日のことを話しはじめた――  「あれは突然でした……」    震災当日、  「ああもうムカつく! あのクソ兄貴!」  「まあまあ、美空だって言い過ぎだよ? お兄さんにだって言われたくないことあるんだから」  「むぅ~なら日和が代わりに兄いの妹になってよ! アタシ妹やめるから!」  「それは無理だってば……」  話では震災当日、美空は友人宅で清剛(あに)の愚痴を言っていて日和はその聞き役をしていたという。  地震が来たのはそのさなかでとんでもない揺れに美空も含めパニックになったという。  最初の揺れが収まってから外に出た時、家に忘れ物をして泣いている男の子がいて美空は日和の制止を振り切ってその子供の家に入っていったが、その直後に二回目の揺れが起きそのまま家が倒壊してしまったことを日和は清剛に話した。  「目の前でその家が崩れてウチは美空の名前を叫ぶことしかできませんでした……すみませんっ!」  「……そうだったのか……」  日和のどこか悔しさをにじませる言葉に清剛は美空の方を見て小さく呟くのだった。                                     
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