内気な自分に彼女が教えてくれたこと。

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【残された選択】  「――そうですか、美空は口がきついですからねぇ」  「まったくですよ……」  清剛は病室で日和に数日前に美空と喧嘩したことを話していた。  「確かに言い方は美空が悪いですけど、でもそれってお兄さんのことを思っての言葉だったと思います」  「少なくとも俺にはそうは感じれませんでしたが?」  清剛がそう言うと日和は少し間を置いて話し始めた。  「……知らないと思いますけど、美空ってほんとはお兄さんのこと大好きなんですよ?」  「はぁ?」  日和の言ったことに清剛は首を傾げる。そんな清剛に日和は続ける、  「あの子勉強とかスポーツとかは人並以上なんですけど、愛情表現が苦手なんですよ。それもお兄さんに対してはどうしても強く当たっちゃうんだって、気にしてて」  「まじかよ」  清剛は全くそのことを知らなかった。  「だから、お兄さんも美空のこと許してあげてください。きっと美空も反省してますから……」  「……仕方ないっすね、わかりましたよ」  清剛がそう言うと日和は安心したように微笑むと立ち上がって「また来ます」と言い病室を出て行った。  病室には清剛とゆめの二人が残る。  「よかったですね」  「まあそうだな、後はさっさと目を覚ましてほしいもんだ」   清剛はどこかふてくされ気味に呟くが、まだ納得してはいないところはあるものの美空に対する見方は少しずつ変わろうとしていた。  後は無事意識が戻るのを信じて待つこと。  だが、運命はとても非情なものだった。  翌日、   「美空しっかりして! 美空!!」  意識は戻らないながらも生きながらえていた美空の容態が急変した。  心拍数は弱まり、心肺停止間近を警告するアラームが鳴り()まない。  「おいしっかりしろ!」  「美空さん死なないでください!」  日和と清剛は声を大にして叫び、ゆめはボロボロと涙を流し泣き出す。  医師とナースが駆けつけ数回電気ショックをすることでどうにか心肺停止の危機は脱したものの、処置後に医師から今夜が山だと告げられる。  その非情な宣告に三人は唖然としてしまう。  「そ、そんな……」  特にショックが大きいのは兄である清剛だった。  現実だと解っていても認めたくはない。  そんな清剛にナースは「そばにいてあげてください」と一言告げて病室から出て行った。  重たい空気に包まれる病室。  すると、  「少し休憩してくる…………」  俯いたまま清剛はトボトボと病室を出て行った。  「彼の所に行ってあげたら?」   清剛が出て行ってからすぐ、日和はゆめに声をかける。  「でも美空さんが心配で……」  ゆめが心配そうな顔をすると日和はクスッと笑って答える。  「大丈夫、美空はウチが見てるから、彼のとこにいってあげなよ」  「……わかりました、ありがとうございます」  少し戸惑いはありながらもゆめは日和に軽く頭を下げて病室を出て行った。  ――ゆめが廊下に出ると抜け殻のように魂が抜けた清剛が壁によりかかり脱力していた。  「あの……隣いいですか?」  「ああ……別に構わない……」  ゆめがそっと訊ねると項垂れたまま清剛はボソッと答える。  しばしの沈黙の後、清剛は暗い口調で話し始める。  「俺、アイツと喧嘩したとき「もうどうにでもなればいい」って言っちゃったんだよ。それがまさかこんなことになるなんて……最低だよな俺」  ゆめは何も言わず黙っている。  「それに、前に怖い夢を見たって話ししたと思うけど、今の状況にそっくりなんだよ」  「……女の子が出てきて息を引き取ったって言ってましたよね」  ゆめが訊ねると清剛は一度で頷いてから、  「ああ、だからあれは本当に予知夢だったのかなって……」  その言葉にゆめはハッとした。  「もしそうなら、美空さんは…………っ!」 「ああ……死ぬ」  そして清剛は肩を震わせむせび泣く。  「ご主人様……」  その哀しみに暮れる姿にゆめはこのままではいけないと思った。そして自分にできることはないものかと考えるがなかなかいい方法が思いつかない。  (私にできること、私にできることは……)  美空の命は今夜が山場、もう残された時間はそう長くはない。  そんな時ふとゆめはある方法を思いつく。  (そうだこれなら……)  だが同時にとても大きな迷いもあった。  (…………でも、これは……)    ――時間は残酷にもあっという間に過ぎ、山場である夜を迎えてしまった。  日和も先程まで一緒だったものの美空の容態が急変したのを知った後込み上げる感情を抑えきれなくなり足早に病室から出ていってしまった。  「くっそ、結局看取ることしかできないのか!」  自分の不甲斐なさにすこし苛立ちが混じった口調で悔しさを露わにする清剛。  そんな清剛にゆめはそっと訊ねる。  「ひとつ聞かせてください。ご主人様にとって美空さんは大切な人ですか?」  「そりゃぁ……一応家族だし、うるさい奴だけど居ないと困る……」  清剛がそう言うとゆめは少し微笑み、ホッとした顔で答える。  「ならよかったです。少しホッとしました」  そして清剛に美空と二人きりにしてほしいと深々と頭を下げお願いする。  「なんでだ? 一緒でもいいだろ?」  清剛がそう言うもののゆめの気持ちは変わらない。  「お願いです」  「わかったよ。後で声かけろよ?」  清剛はそう言って病室を出て行った。  そして清剛の姿が見えなくなるまで見届けるとゆめは美空の方に目をやり呟いた。  「……貴方(あなた)を死なせるわけにはいかない。ご主人様の為にも……その為なら、私は……」                                
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