内気な自分に彼女が教えてくれたこと。

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【唐突な出会い】  「あ、すみません。 ビックリさせてしまいましたね?」  清剛の反応に女の子はぺこりと頭を下げて陳謝(ちんしゃ)する。  「ビックリもなにも君は誰、いつから居たの……」   清剛が疑う目で訊ねると女の子は、自分がフィギュアに宿った幽霊であること。  昨日の晩、清剛に拾われ、一夜を明かしたことを話した。  「……あっそう……で? その幽霊さんが俺に何の用?」  女の子が昨日のフィギュアである事実以外信用できず、清剛は疑いの目を向けたまま目目的について訊ねるが、 女の子が放った言葉は清剛を困惑させるものだった。  「私は主人である貴方(あなた)に幸せになってほしくてきました」  「…………幸せねぇ……」  「どこかおかしいでしょうか?」  「……いや別に……」  (なんだよ、どうなってんだ? 急にそんなこと言われてもわかんねえつうの)   確かにできるだけ楽に生きたいと自分の生き方に自信がないながらも清剛は思ってはいるが、それほど真面目には考えていないので『幸せ』といきなり言われても胡散臭(うさんくさ)く聞こえてしまう。  「……まぁいいや……やりたいようにしてくれればいいよ」  清剛は他人事のようにてきとうに答える。  すると女の子はどこに入っていたのか契約書のような紙を取り出す。  「今度はなんだ」  面倒くさいと思いながらも手渡された紙に目を通す清剛。  紙には女の子の目的と(あるじ)側の決まりごとが記されていた。  「なになに……一、決して使いに暴力は振るわないで下さい心が傷ついてしまいます……二、外出は出来ますが活動時間には限りがあります。 三、名前を付けて下さい………か」  一と三は普通だが二番だけ妙に深刻さがある。  「何で二番だけこんな内容なんだ?」  文面が気になり清剛が女の子に訊ねると、  「午後六時を過ぎると、私は霊力が抜けてフィギュアに戻ってしまうのです……」   女の子はそう淡々と答える。  「ふぅ~ん……なるほどな……」  (言ってることがさっぱりわからん! なんなんだよ霊力が抜けるとか、完全にファンタジーじゃねえか!)   この時は自分には関係ないと思っていたのか、清剛は大して気にする様子も見せず答えるのだった。    ――その後  まだいまひとつ女の子のことを理解できない中、清剛は話を進める。  「で、次は名前か……基本何でもいいんだろ?」  清剛が訊ねると女の子は一度「はい」と答える。  「……そうか。じゃあ貞子で決まりだな、いいだろ?」  思いつくまま、てきとうに答える清剛。  すると女の子は顔をしかめる、どうやら気に入らないらしい。  「…………じゃあ加奈子は?」  頭を悩ませながら清剛はまたしてもよく考えず答える。  「む~真面目に考えて下さいよぉ!」  しかめ面で女の子は口を(どが)らせる。  「んなこと言われたってさぁ……」  面倒くさそうな顔で屁理屈を漏らす清剛。とはいえなかなかよさそうな名前が浮かんでこない。  (ああもう面倒くさいなぁ……こうなったらもうやけくそだ)  「…………じゃあもう花子でいいだろ!」  どうにかこれで納得してもらおうと考えていた清剛だったが、  「幽霊繋がりだからっていい加減にして下さい!!」  案の定というか、清剛はむくれ面になった女の子に吠えられてしまった。  「――なあ……なあたら……」  「もう知りませんっ!」  ふざけがすぎたようで清剛は女の子にプイッとそっぽを向かれてしまう。 「……わかった……悪かったよ。ちゃんと考えるから……」  「本当ですか?」  気まずい空気に清剛は渋々謝るが、女の子の目は疑ったままである。  それから清剛は考えた末どこか自信なさげに言った。  「とりあえず考えたんだけど……」  それに対して女の子は疑いの目を向けたまま言う。  「また変なのだったら許しませんよ? 激おこぷんぷん丸ですよ!?」  「プッ……お、おう!」  「今笑いかけてませんでしたか?」  「いや……気のせいだ……」  必至(ひっし)誤魔化(ごまか)す清剛だが笑いだしそうだったのは本当である。  「じゃあ改めて……『ゆめ』てのはどうだ? 俺の名字から取ったんだけど……」   「……まあ、貞子や加奈子よりはマシですね。 いいでしょう」  「そ、そうか、ならいいんだが……」   正直あまり自信のない名ではあったが、どうにか気に入ってくれた様子の女の子にホッと胸を()で下ろす清剛であった。  「――じゃあとりあえずよろしくな。 えっと確か……」  「ゆめです!」  「ああ。そうだったな」  「もう~しっかりして下さい……」  十二月二十五日、清剛はひとりの女の子と出会った  まだ疑わしい部分は多い。  その目的も『幸せ』という漠然(ばくぜん)としたものなのでなおさらである。  ただ、この出会いが後に自分の価値観に大きな影響を与えることなどこの時の清剛は全く思いもしていなかった……。  ――どうにか女の子に名前を付け終えた清剛は炬燵(こたつ)に入って(ひま)そうにイヤホンをつけてスマホでユーチューブを見ていた。  見ているのは二、三年前に投稿された古いものだが、(ぼう)ステルスアクションゲームのカセットテープの内容で、サングラスをかけた強面(こわもて)のキャラクターがお菓子と炭酸飲料について熱く語っている。  くだらない内容ではあるが暇つぶしにはもってこいである。  すると、  「そういえば貴方(あなた)のことはなんと呼べばいいですかね……?」  ゆめはふと清剛に訊ねる。  「別に何でもいい……好きに呼んでくれてかまわないぞ」  清剛はユーチューブを見ながらそう答える。  「そうですか……では、ご主人様でいいですか?」  「ん? まぁそれでいいよ」  ゆめが訊ねたことに特に疑問も否定もすることなく清剛は答える。  「う……本当にてきとうな方ですね……」  そんな清剛の反応に呆れるゆめであったが直ぐに話題を切り替える。 「そういえば昨日ご主人様はどこに行かれてたんですか? 私を拾ったってことは外出されてたんですよね?」  「ああ……友達に誘われてベイエリアに行ってたからな」  訊ねられた側の清剛は淡々と答える。  するととゆめは疑問を投げかける。  「あの……ベイエリアってなんですか?」  どうやら少し興味があるようである。  「ん? そうだなぁ、ここから少しいったとこにある港町で、函館の観光スポットだ。人気の場所だけど俺は少し苦手だ」  清剛は淡々と答える。  有名な場所ではあるが、市電を使って行けてしまう距離にあるので大してすごいとは思っていない。 それでもゆめは興味があるようで、  「あの無理にとは言いませんが……お昼になったら一緒に行ってみたいんですが、ダメですか?」  清剛の『苦手』という言葉にゆめは少し言いづらそうではあるものの、駄目元で訊ねる。  「え〜まじかよ……まぁ、別にいいが……」  (また行くのかよ勘弁してくれよ……)  昨日に続いて今日も行くことになるとは思ってもいなかっただけに、内心面倒くさいと思いながらも「一度だけならいいかな」と割りきる清剛だった。                                                             
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