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プロローグ
小雪がちらつくクリスマスイヴの函館ベイエリア。
人も街も賑わい、街道に飾り付けられた電飾や巨大なツリーがロマンチックさを演出している。
その中に男二人の姿があった。
「……おい、何でよりにもよってこんな人の多い場所にしたんだよ。俺がこういう所苦手なの知ってるだろうが……」
ジト目で不満を漏らす彼は夢灯清剛。
年齢は二十五歳、身体は細身で見た目は覇気がなく暗い印象である。
数年前まで実家で母親と三つ下の妹と暮らしていたが、母親は病気で他界し、妹もその後に自立した為今は函館の元町にある実家で一人暮らしをしている。
一応土木のアルバイトをしながら生活しているが、職場の人間関係に悩みを抱えている。
「たまにはいいだろ? 気分転換になって」
「なってねえよ……」
「まあそう言うなって」
一方、嘆息する清剛に陽気に答える彼は、佐藤武士
年齢は清剛と同い年で、高校時代からの仲である。
背は低く俳優の綾野剛を模したパーマ髪が特徴だがそれ以外のパーツは残念と言わざるを得ない。アニメや漫画のフィギュア集めが好きで清剛からはオタクと言われているが本人は否定している。
「悪いがもう帰る……俺はもう限界だ」
呆れ顔で嘆息してからそそくさと清剛は立ち去ろうとする。
清剛にとって、今日のように多くの人が集まり、浮かれ楽しむ日はなんともいえない疎外感を感じてしまうことから苦手としておりできれば外に出歩きたくはないのが本音である。
「まぁ気持ちはわかるが同志、そんなに早く帰って何するんだよ」
立ち去ろうとする清剛に武士が苦笑いを浮かべながら訊ねると、清剛は淡々と返す。
「メシ食って寝る」
「……即答かよ、それだといつもと変わらないだろ?」
清剛のやる気のない答えに呆れる武士だが、
「別にどうしようといいだろ。じゃあな」
清剛は武士に言葉少なく言うと軽く手を振ってベイエリアを後にした――
「はぁ……」
武士と別れてから清剛は路面電車の駅を目指し歩いていた。
だがその足取りはどこか重たい。
「………………」
武士と別れたことで自分の置かれている現実を理解する清剛。
「どいつもこいつも浮かれやがって……」
クリスマスイヴだけあって帰り道でさえカップルや子連れの家族の姿が垣間見える。
その幸せそうな姿が目に入る度悔しい気持ちになってしまう。
理由は清剛が自分の生き方に自信がないからである。
「早く帰ろう……」
その場の空気に耐えかね清剛は急ぎ足で駅へと向かった。
――その後清剛は自宅がある末広町駅で下車し、歩き出す。
師走の風がスッと清剛の頬をかすめる。
「寒っ!」
そう身震いしつつ坂を上っていく。
清剛の住む元町は函館の観光名所で、有名な教会や坂道がある。
この日和坂もそんな有名な坂の一つである。
その帰り道清剛は近くの公園に立ち寄ることにした。
公園の名は元町公園、ここも有名な場所である。
「はぁ…………」
清剛は一度、嘆息してから柵に両手をついて海に目をやる。
仕事もうまくいかず正直嫌気がさしているが、母親が死んで以来、妹との関係もギクシャクしている。
「なんだかなぁ……」
そう呟いて海に身を投げようとも考えるがそんな覚悟すらない。
「情けないな……俺は……」
清剛はそう呟い《つぶや》てから公園を後にした。
それから五分後、
「――やっと着いた……さて、さっさと飯食って寝ちまおう」
玄関先に着くと清剛は重い足取りで中に入る。
すると、玄関先に小さな箱が無造作に置かれていた。
「なんだこりゃ……」
不審物にしか見えない箱に警戒心を持ちつつもそっと持ち上げてみる清剛。箱の色は赤く金色のリボンがつけられているが差出人の名前すらない。
「チッ、一体誰のいたずらだよ……たくっ」
少しイライラしつつ一度顔をしかめてからため息を吐く清剛。
「さてどうするよこれ」
頭を抱えて悩ましい顔をする清剛。
とはいえ外は悩んでいられるほどの気温ではない。
「……家の中で開けてみるか、ゴミなら捨てればいいことだし……」
そう呟いて清剛はトボトボと足を引きずるようにして家に入った。
「誰がこんなものを……」
茶の間のソファーに腰を下し、もう一度箱を眺めがやはりなんの変哲もないクリスマスプレゼントの箱である。
「どれどれ……」
清剛は包装をはがし、ゆっくり蓋あける。
すると、
「…………フィギュア?」
中に入っていたのは目新しい美少女のフィギュアだった。
手に取って見てみると、フィギュアの容姿は極めて白に近い紫色のロングヘアー、瞳は淡いシャンパン色でサンタクロースの格好を模していた。
清剛自身フィギュアにはあまり興味がないのだが何故かそれにだけは引き込まれる何かを感じた。
ふと、その瞬間、
「ぅ……何だ、急に眠気が……」
清剛は抵抗する間もなく激しい眠気に襲われ、そのままソファーへと倒れ込んでしまった――
翌日、
清剛は空腹で目を覚ました。
昨日そのまま寝込んでしまった為、空腹もさることながら服装もそのままである。
「ん……今何時だ?」
うっすらと目を開けて時計を確認しようとしたときだった。
聞き覚えのない声が耳に響いた。
「あ、やっと目が覚めたみたいですね? おはようございます」
完全に起きていないながらも、声のした方へ目をやった清剛は自分の見ているものを疑った。
「なっ! ウソだろ!?」
驚きのあまり目を覚ましてしまう清剛。
驚くのも無理はない、眼前に見えている人らしきものの容姿は昨晩箱に入っていたフィギュアと瓜二つだったのだから――
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