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子役時代
私は昔、子役をしていた。ドラマやらに出るあの子役である。
初めはただの一般人に毛が生えた程度の知名度と活躍だったが、私にある才能があることを母が気づいてからそれは一変した。
早泣きである。
私はどんな状況でもすぐに泣くことができた。始めこそ涙を流すのに30秒程度を要していたが、鍛錬によりそれは10秒以下にまで早まった。
この特技のおかげで私はテレビ番組に引っ張りだことなり、様々な番組に呼ばれては早泣きを披露した。
だがしかし、どんなものにもブームの終わりは来るものだ。
私が成長していくにつれ、番組からのオファーが減っていった。理由は単純、珍しくなくなったからだ。
私が持て囃された理由は、人生において悲しい経験や惨めな体験が少ない年少の子どもが、さも本当に悲しい様に泣いて珍しいからである。
少し年が上がれば泣きが上手い子役などごまんといる。次第に私はメディア露出が少なくなっていった。
私自身呼ばれなくなった理由もわかっていたし、悲しかったのも事実だった。しかし、これが芸能界だろうとか、そろそろ一般人に戻ろうかなとか考え始めていたのでここらが潮時だろうと思った。
けれど──母は違った。
有名人の母であるという優越感。
その甘い蜜の味を、彼女は忘れることも、諦めることもできなかったのである。
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