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それからと言うもの、母は私にとって嬉しいこと、喜ぶべきことが起きるたびに泣くことを命じた。嬉し泣きではなく、感情を一気に反対方向に持っていき、今が人生で最も悲しいと思って泣くように。
私の演技力が上がればまたテレビからのオファーが増えるとでも思っていたのだろう。
しかしながらそんなことはなく、私の話題はどんどんと減っていった。
壊れてしまった親子二人を残して……。
「今でこそ落ち込むことは無くなったけど、昔は嬉しいことがある度に本当に落ち込んで泣いてたんだよ。だから子どもながら誕生日が嫌いになったし」
私は話しながらケーキを口に運んだ。
幸雄が上目遣いで尋ねてくる。
「こんなこと言っちゃいけないかもしれないけど……お母さんにちゃんと伝えればよかったんじゃないかな?我が子のことを思うなら、少しは……」
「たらればの話をしてもしょーがないって。それにウチは母子家庭だったから、お母さんに逆らいたくなかったし、苦労してたのも知ってた」
「……そっか」
幸雄はケーキに目を落とした。
「……あー、もう!なんで昔話なんて始めたんだろ!今はリハビリして涙がちょろっと出るくらいなんだから、しんみりしないでよ!」
私は目の前のケーキを平らげ、また新たにケーキを切り出した。
「え……まだ食べるの?太るよ?」
「やかましい!」
心配げな幸雄をよそに、私はケーキにフォークを突き刺した。
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