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2
青井は退屈していた。
今すぐにでも現状を把握したいところだが、
目立つ行動をして家の主にでも正体が知られれば面倒なことになる。
ここは一旦落ち着いて様子見することにした。
ところが、手元に何もないため、ゲームで時間を潰すことも、
趣味のイソギンチャクの剥製作りもできやしない。
仕方なく、床に落ちているぬいぐるみで遊ぼうと考える青井であったが、
この場にはライバルが一人いた。2歳の妹だ。
青井と妹は互いに睨み合って譲る気配はない。
激しい取り合いになることが予想される。
青井はまだ確かでない足取りで、ぬいぐるみを取りに行った。
妹も負けじと狙いを定めて向かう。
取った!一足先に青井がぬいぐるみの端を掴んだ。
そして、手首のスナップを利かせて肘を曲げ、ぐっと引き寄せようとする。
が、妹の手も既にぬいぐるみを力強く握りしめていた。
彼女の手首には静脈がくっきりと浮かび上がっている様が見える。
顔はまるで般若の面。
青井は予期せぬ恐怖に慄き、
掴んでいた手をうっかり離してしまった。
ぬいぐるみはそのまま妹の手の中へ。
追い込まれた青井。どう出る。
すると彼女は、鼻を啜ったかと思えば、おいおいと泣き出した。
私が泣く理由?そんなの親を味方につけるために決まっているでしょ!
と言わんばかりの泣き様である。
泣き声を聞きつけた母親がすぐさま駆けつけてきた。
彼女は状況を一瞥すると、青井を諭すように言う。
「お姉ちゃんなんだから我慢しないと。譲ってあげなさい」
作戦失敗。
妹は拳を天に掲げ、盛大に喜びを表現している。
「うっしっしっしっし」
この笑い方はまさか......
青井の第六感が唸った。何かを悟った様子である。
母親が持ち場に帰った後、
青井は恐る恐る、ぬいぐるみで激しく遊ぶ妹に尋ねた。
「もしかして陽子ちゃん?」
不意の質問に妹は大変驚いた様子であったが、
少し間を置くと、すんなりと答えた。
「はい。え、青井......先輩?」
予感的中。
「うん、そうだよ! 会えてよかったー!」
「わっ、先輩! とっても寂しかったんですよー」
「寂しがりの陽子ちゃん可愛い、ウフフフフ」
「もうからかって!
先輩こそ艶々のベビーフェイスで凄い可愛いですよ!
あ、子どもだから当たり前か。アハハハハ!」
見ていられない。2歳児と4歳児の社交辞令は勘弁してくれ。
それから1時間後、母親が再び来て二人に呼びかけた。
「保育園に行く時間だよー! さぁ、準備、準備!」
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