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3-1
保育園にはやはり子どもが数多くひしめいている。
今日からここで過ごしていくと考えると、青井は何か気後れした。
仕事に追われる日々に比べれば楽なのは確かだが、
如何せん人生の楽しみが当分ない。
また、木村とは年齢が異なるため、別々の部屋に移された。
唯一の仲間とも離れ離れになってしまった事実が、青井を精神的に追い込む。
「もう嫌!」
青井は思わず心の底から叫んでしまった。
元の世界に戻りたいという思いが溢れ出たのであろう。
その直後、不思議な光が青井の周囲に数秒間現れ、ふっと消えた。
他の園児や先生がキョトンとした顔でこちらを見ている。
彼女は恥じらいながらそそくさと部屋を出た。
青井が廊下の片隅で感情を押し殺し顔を伏せていると、
誰かが彼女の肩を優しく叩いて声をかけた。
「大丈夫か、香澄?」
香澄......!?
彼女の本来の名前を知っているのは、後輩の木村しかいないはずだが。
「誰?」
青井が相手の顔を見てなお、そう聞き返すのも頷ける。
なぜなら、皆、子どもの姿で、同じような顔だからだ。
「翔だよ。久しぶりだな。こんな所で会うなんてさ!」
彼の名は五島翔。青井の元カレである。
「翔!? 本当に翔なの? ずっと元気にしてた?
直近5年の西アジアの採油量の推移についてどう思う?」
流石は石油王の娘。このような状況でも聞くことが違う。
「ちょっと静かに! 一回落ち着いて」
五島が興奮する青井をなだめる。
「普通に喋っているのを他の奴に聞かれるのはまずい。
おっさんがそう言っていたからな。場所を変えよう」
二人は人気のない一室へ移動した。
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