3-1

1/1
前へ
/8ページ
次へ

3-1

 保育園にはやはり子どもが数多くひしめいている。 今日からここで過ごしていくと考えると、青井は何か気後れした。 仕事に追われる日々に比べれば楽なのは確かだが、 如何せん人生の楽しみが当分ない。 また、木村とは年齢が異なるため、別々の部屋に移された。 唯一の仲間とも離れ離れになってしまった事実が、青井を精神的に追い込む。 「もう嫌!」 青井は思わず心の底から叫んでしまった。 元の世界に戻りたいという思いが溢れ出たのであろう。 その直後、不思議な光が青井の周囲に数秒間現れ、ふっと消えた。 他の園児や先生がキョトンとした顔でこちらを見ている。 彼女は恥じらいながらそそくさと部屋を出た。  青井が廊下の片隅で感情を押し殺し顔を伏せていると、 誰かが彼女の肩を優しく叩いて声をかけた。 「大丈夫か、香澄?」 香澄......!? 彼女の本来の名前を知っているのは、後輩の木村しかいないはずだが。 「誰?」 青井が相手の顔を見てなお、そう聞き返すのも頷ける。 なぜなら、皆、子どもの姿で、同じような顔だからだ。 「翔だよ。久しぶりだな。こんな所で会うなんてさ!」 彼の名は五島翔。青井の元カレである。 「翔!? 本当に翔なの? ずっと元気にしてた?  直近5年の西アジアの採油量の推移についてどう思う?」 流石は石油王の娘。このような状況でも聞くことが違う。 「ちょっと静かに! 一回落ち着いて」 五島が興奮する青井をなだめる。 「普通に喋っているのを他の奴に聞かれるのはまずい。  おっさんがそう言っていたからな。場所を変えよう」 二人は人気のない一室へ移動した。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

78人が本棚に入れています
本棚に追加