君の死に顔を観たい

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* 「完! じゃねぇよ! いい加減起きなさい、恵子!!」 「イヤー! 返して寒い死ぬぅ!」  剥ぎ取られた掛布団に両手両足でカエルのようにしがみつく。全然察してくれなかった! 字を書く筋力無駄にした! 「正月だからっていつまでもグータラしてんじゃないの!」 「正月にグータラしないでいつグータラすんのよ!」  反論するや否や掛布団越しに蹴りを食らい、私を暖かく包み込んでいた人生の恋人から引き剥がされてしまった。 「初詣くらい行ってきたら?」 「いいよ。寒いし人多いし」  コタツに引っ越した私は、コタツ布団から頭だけ出して二度寝の構えである。あんたって子は……、と私の生首に母の溜息が降り注いだ。  溜息を吐きたいのはこっちの方だ。  毎年帰省するたびに祖母からは「いい人いないのか」「結婚はまだか」の攻勢に晒される。 「昔、女はクリスマスケーキって言われてね、二十四までには結婚したものなのよ~。二十五になったら価値が下がるから」 と時代錯誤も甚だしい。私は二十五日だろうがいつだろうがケーキ食べたいけど?  今日だって祖母は「恵子にいい人が見つかりますように」と神社をはしごして回っているのだ。ありがた迷惑の極みである。  今は女性もバリバリ働く時代なのよ、と母は祖母を諫めてくれるのだが、気を遣われているようで余計に鬱陶しい。母だって本音では私に早く結婚して欲しいと思っているのだ。そんなことくらい、娘はすぐに気づく。  実家がこの有様なので、正月も帰省したくはなかった。私の足を実家に運ばせたのは、年に一度くらいは親に顔を見せてやらなきゃという義務感だけだ。お盆はあれこれ理由をつけて帰省の魔の手から逃げている。  結婚する気はないし、できるとも思っていない。「今のうちにお金を貯めてイケメン介護士のいる老人ホームに入って一生イケメンにお世話してもらお! あ! イケメンにシモの処理してもらう時に備えて、ミュゼで脱毛とかしといた方がいいかな!?」などと妄想している時点で我ながら終わっている。親も祖母も早く諦めて欲しいものだ。孫の顔なら三年前に結婚した姉が見せてあげたんだからもういいだろう。  かろうじて、綺麗なドレスを着たいという乙女心は生き残っている。若いうちに撮っておこう。新郎役は雇う。金髪碧眼の王子様を所望する!  コタツでニタニタしていると、視界の端で母がこめかみを押さえていた。
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