残酷な現実

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残酷な現実

「ーーーごめん。本当に、ごめん」 その日、私は……靴も脱がず玄関先で土下座する彼の姿に、放心するしかなかった。 今日は週末。 明日の予定は決まっていて、前からずっと楽しみにしていて、今夜は二人、お酒を飲み交わしながらその話しで盛り上がるつもりだったのに。 そのつもり、だったのに。 どうして私は突っ立ったまま、蹲る彼に謝罪を繰り返されているのだろうか。 そして、 どうしてそんな彼の後ろで、涙に暮れているお腹の大きな女性……彼の元カノがいるのだろうか。 視界に映る二人はとても現実とは思えない。 彼と私は付き合って半年。 会社の同僚で、ある飲み会の席で同時期に失恋した事を知り、意気投合。その流れで男女の仲になり、同棲し、未来を語るまでになる。 とんとん拍子で進むことに周囲は驚いていたけれど、温かく見守ってくれていた。 互いが辛い別れを乗り越えた先に結んだ縁は、まさに運命だろうと笑って祝福するぐらいに。 私も、そう思っていた。 たぶん、彼も。 「ごめん、ごめん! ……申し訳ないっ!」 「本当にごめんなさ……っうう、こんな、こんなことになる、なんて…っ!……うぅ、ぐすっ」 嗚咽を漏らす二人に何が言えただろう。 元カノの迫り出したお腹を見れば分かる。 明らかに半年以上。産月はもうすぐそこ。 ……つまり浮気ではない。 彼と別れた後に気付いた妊娠の証拠は、言葉よりも雄弁だった。 誠実で真面目。 真摯な彼の性格、その良さが、今は憎くて憎くてたまらない。 いっそ思い切り酷い男だったなら。 それか、黙って自然消滅を狙ってくれたなら。 こんなにも残酷な場面を見ることもなかったのに。 こんなにも想いを残した別れを迎えなかったのに。 本当に彼の子なの? 間違えてないの? 言いたい言葉をグッと堪える。 今更それを確認したところで彼の決断は覆らない。 思い当たる節がなきゃ、二人して情けないほど顔をぐちゃぐちゃにして私に謝ったりしないだろう。 産まれてくる子供に罪はない。 成した責任は取らなければならない。 分かってる分かってる分かってる。 でも、でも、でも! なんで? どうして? 納得出来ない自分がいる。 理不尽だと、目一杯、叫び散らしたい衝動が込み上げる。 誰が悪いのか、誰も悪くないのか。 訳が分からない。 混乱する状況。 突き付けられた状況。 受け入れるしかない、状況。 嫌だと言えたらどんなに楽か。 自分だけならそう言ってしまえるのに、ぶち撒けられるのに、元カノの膨れたお腹がそれを止めさせる。 未来を共にしよう。 約束したのに出来ない事を詫びる彼に、ただただ分かったと、それ以外を言える言葉はなかった。
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